嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

時鳥の兄弟が住もうとったっちゅう。

ところが兄さんな痩せ細って、

何【なん】ていうか知らん体の弱【よぉ】して、

もう羽も動かしえん。

そいけん、この弟の方が四方八方飛び回って、

餌ばこの兄さんにも運【はこ】うで、

この兄さんの時鳥は弟から養われとったて。

ところが、ある大雨の降る日じゃった。

そん時もう、

兄さんも弱い体でボソーボソ窓んと所【とこ】で見つけて、

雨が降る降る降る。

朝からいっちょん止まらじぃ、雨が降った日じゃった。

そん時にもう、兄さん窓から見よったいどん、

実はお腹の空【す】いて、

弟が今帰って来【く】っか、今帰って来っか、

と思って、兄さんは待っとっけど、弟の姿はいっちょーん見えん。

そいぎぃ、仕舞いにゃ、お腹はペコペコになっし、

弟は来【こ】んし、もう歯痒うーしてたまらんで、

もう泣きべそかいて待っとったとけぇ。

もう、そがん雨の、夜も、

日の暮れるとともに、雨がサァーッて降るのが、

スターッて止んだて。

そん時に弟がね、

もう小【こーま】か腐れかかったような、

小さか木の実ばいっちょ持って来て、兄さんの目の前に、

「ごめんねぇ」ち言【ゅ】うて、

肩を落として、ポトンとその、

自分に小さか腐れたような木【こ】の実ばくいて、

「今日の獲物はこいだけかい」ち言【ゆ】うて。

「うん」て、頷【うなず】いたて。

そいぎぃ、兄さんな腹かいて、

「こいや、お腹を空かしてどれだけお前【まい】を待ったかあ」

て、言うとといっしょに、

もうそこにあるもんは何【なん】でも投げつけて、

「お前【まい】は、あちこち巡って、

美味【おい】しい物をいっぱい食べたろう」と。

「私【わし】はこんなに朝から食べんでお腹ペコペコだよ。

お前【まい】は本―当にどいだけ待ったか知らん。

今日一日【いちんち】がもう一か月ぐらいあっごと待ったあ」

て言うて、腹かいてもう、

散々そこん辺【たり】あっとばありしだい投げつけて、

弟はとーうとう死ぬような目に合わせたて。

弟がとーうとう死んだら、真っ先、

「まあーだ、弟の腹ん中には

美味しい物がいっぱい入【はい】っている。

間違【まちぎゃ】あなか。こいを食べよう、

と思って、弟のお腹まで鋭い嘴【くちばし】でシェーンて、

お腹ば割ってみてみたら、

弟の腹の中には、藁【わら】屑【くず】やら泥屑やら、

たいした物は、食べらるん物【もん】は何【なーん】もなか。

そいぎ兄の時鳥はそん時に、

「ああー、弟は、自分は泥屑のような物、粗末な物を食べて、

私【あたし】には美味しい物ばっかい運んでくれた。

そいを疑って悪かったなあ。

本当【ほんと】に弟よ、生きてくれるものならいいけど、

ちい死んでしもうたあ」と言って、

悪いことしたあ、と思うて、

来る日も来る日も、兄の時鳥は、

「弟恋しーい、弟恋しーい」て、朝早くからその辺には鳴きよったって。

ホトトギスの名前を聞いてごらんなさい。

きっと

「弟恋しーい、弟恋しーい」て、

こういう鳴き声をしてるんですようて。

チャンチャン。

[四六 時鳥と兄弟] (出典 蒲原タツエ媼の語る843話P15)

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