東川登町袴野  南 権平さん(明31生)

 年寄い(うんぼ)さんたちがその、不調ちゅうごたっ風で、その、

疑うごたっふうにいうことも合ったいなたあ。

これはとにかくなたあ、字というものは、なかなか読み方の違うもんなたあ。

一つ字も、もういくといでも読まるっちゅうごたっ風で。

ちょっと例えてみっぎその、この武雄ですっぎぃ、

「早合点する人ば、武雄の何処何処に平林(へいりん)ていう人がおんさっけん、

そっちへその、平林(へいりん)さん方を(たん)ねて行け」と、こう、

そいぎ(あんま)いその、早合点して平林(へいりん)てちゃ、その、わからじぃ、

「たいらばやしさん方、あの、たいらばやしさん方、何処じゃろうか」と。

そいぎぃ、たいらばやして言うことは、どうして向こうに、

いっちょん知った者がおらんちゅうわけたい。

「『たいらばやしさん』ち言うぎぃ、知らんですよ」と。

そいぎ今度(こんだ)あ、こりゃあ字の読み方ば違うばいと思うて、今度(こんだ)あ、

「ひらばやしさん方、何処でござろうか」と言うごたっ風で、

もう知った者がなかったらしかなんたあ。

ひらばやしさんて言うぎぃ、何事(にゃあごと)なかったどま。そいぎ今度あ、

字の読み方の違うたばいにゃあと思うて、あの、

このいちはち、じゅうじゃんなたあ、いちはちじゅうの木が二つ(なろ)うどっけん、

「いちはちじゅう、もくもくさん方、何処でござろうかあ」と。

そいぎと、おかしなこと言うにゃあと思うて、沿いもわからんじゃっけん。

そいぎぃ、こりゃまた字が(ちご)うたばいと。

「一つと八つとなたあ、一つ八つととっちっちぃ」と、こう言わしたてぇ。

そいぎそいも、

「知らん」て言わす。

そいぎ今度(こんだ)あもう、そこの町のごたっところば、

「たいらばやしか、ひらりんか」と。

「いちはちじゅうのもくもくか。一つと八つか、とっちぃちぃ」と、

そこの町ば(おろ)うで(さり)いて。

そいぎぃ、年寄いの(うんぼ)あたいが、昔は木綿(もんめん)車で

こうふきよったもんじゃいもんなたあ、木綿車、あの、糸ばすっとの。

そいぎ今度あ、気狂いのごたっとのにゃあ、妙なこと言うて。そいぎもう、

「たいらばやしか、ひらりんか」と。

「いちはちじゅうのもくもくか。一つと八つか、とっちぃちぃ」と。

そいぎ今度あ、年寄いあたいが、木綿車引きおって、木綿ばこうあせて、

「たいらばやしか、ひらりんかい。

いちはちじゅうのもくもくか。

一つと八つか、とっちぃちぃ」て、木綿車の口調に合わせたち。

(出典 未発刊)

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