多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 それでね、この七兵衛と言う人が、

師走に一年分の、

掛け【借金】を取りに行ったそうです。

七兵衛と言う人は魚屋さんでした。

そして、集金に行って帰って来ていたら、

途中に堤があったそうです。

すると、その堤の土手の所に来たら、

向こうに、狐がですね、

泥を体に塗り付けていたそうです。

なぜ、あんなに塗り付けているのかと

思っていました。

そうしたら、今度は、

あの柴の葉をばペチャペチャ付け始めました。

あはーあ、なぜ、

あんなにペチャペチャしてるのかなあ、

と思っていて、一時(いっとき)経ったら、

立派なお姫さんになったそうですよ。

あはーあ、野狐(ヤコ)が、あんなにして、

人を騙しているなあ、

と思って、それを見ていたんです。

そうしていたら、今度は、八兵衛さんが来て、

「あら、七兵衛さん。お前(まい)、

そけぇ何しよっとねぇ【そこで何しているね】」

「ちょっと待てさい【待ちなさい】。

ぎゃんして【こんなにして】その、

野狐の化けおっ」と。

「そいで、泥ば体(からじゃあ)ぬすくい付けて、

柴の葉ば付けたぎぃ、

立派なお姫さんになっとっ【なっている】」

「あら、ほんなことたーあ【本当だね】」

と八兵衛さんが言いました。

八兵衛と言う人は、

酒屋の丁稚【番頭】さんだったそうです。

それで、酒屋の番頭さんが、

集金して帰って来(き)ていて、

次の土手で、野狐が化けている様子を

八兵衛さんも、それを見ていたそうです。

そうしたら、

「よし。そいぎ俺(おい)が今度あ、

あいが何処(どけ)ぇじゃい

入(ひ)ゃーあに違(ちぎ)ゃーあなか。

そん時ゃ、俺が行たて、

そうして尻(けつ)ば剥(は)ぐって、

そして尻尾ば引き出(じ)ゃあて、

俺が化けの皮を、俺が、あの、破ってくるっ」

と。

「化けの皮を現わしてやっ。

あん畜生(つきしょう)その、騙しよっ」と言って。

そうして、

「行こーい」と立って言いました。

そうしたら、そのお姫さんが途中で、

消えたそうです。

お姫さんが消えたものだから、

「あら、のうなったじゃーあ」と、

その八兵衛さんが言うと、

「俺(おり)ゃもう、

急ぎよっけん【急いでいるから】

先に帰っけん(帰ルカラ)」と言って、

八兵衛が帰ったそうです。

それで、自分の家に帰って来ました。

そうして、

「えらい遅かったのまい【遅かったね】」と、

嫁さんが言いました。

すると、

「実は、こがん、こがんじゃった」と答えました。

「銭もしっきゃあ【全部】集まって、

どっさい持ってきたぼう【沢山持ってきたよ】」

と言いました。

そうして、その金袋を開けてみたら、

なんと、

柴の葉だったそうです。

それで、

「こりゃあ、あの、柴の葉ばい」と。

「柴の葉じゃなか。あの、

銭のちゃーあんと入っとっやあ」と。

そうして、また見てみたら、

やはり、柴の葉でした。

「おかしかにゃーあ【おかしいね】」

と、言うことでした。

そうしたら、すぐ八兵衛の所に行きました。

それで、

「わさんな【お前は】、あの、

俺(おい)が銭とすい替えちゃおらんかーあ」と。

「家(うち)帰ってみたぎぃ、

柴の葉じゃったーあ。

そいけん、わさんな【だから、お前は】俺ば、

きゃあくい騙(だみ)ゃあちゃおらんかーあ

【騙してはいないか】」

と、言ったようです。

そうしたら、

「いんにゃあ【いいえ】。

俺(おり)ゃあ、

お前といっぺんでん会わんじゃったばい

【一度も会っていないよ】」

と、こう言い出しました。

「そいぎにゃあ、ばってん【しかし】お前、

あの、会(お)うたろうがーあ」と。

「いんにゃ、俺、会わん」と。

「そうして俺、当たい前、

銭ば、がんして【銭をこんなにして】、

こけぇほら、持って来て、

えぇ、その、しとーっ」と言いました。

そうしたら、

「あはーあ。とにかく、そいぎぃ、あの野狐が、

こりゃ俺ば、きゃあくい騙ゃあたばい

【これは俺を騙したよ】」

と、言うのがね、前に、

「俺ゃあ、野狐からでん、狸からでん、

俺ゃあ騙さるっちゅうことはなか」と。

「騙すぎ俺がもう、

その、黙っちゃおかんけん。

俺いっちょは騙されんたん

【俺だけは騙されないよ】」と言って、

確か自慢の話を、その時、

堤の所で話したそうです。

そうしていたら、

そんな風で、今のように言うように

「野狐から騙された」

と言う話を

家(うち)の祖母から聞いたごとあります。

そいまあっきゃ【それでおしまい】。

(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P54)

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