多久市北多久町中ノ原 飯盛康晴さん(明43生)

 女中【お手伝いさん】がおって、

そのお手伝いさんが田舎から出てきたもんだから。

そいもんだから、その、やっぱい田舎の方言で、

まあ言葉使いよったわけよ。

そうしたぎぃ、

そこの女中さんに行たとっところの

旦那(だんな)の奥さんが、

「言葉が汚いから、あんた、がんもう、

口からでまかせ言っちゃいかんけん、

物事を言う時分な、必ず『お』の字を付けなさい」

と言うて。

「ああ、そうですか」と言うて、

「お」の字ばっかい言いよったわけよ。

そして、「お」の字ばっかい付けて

言いよったところが、

おかしな言葉になったけん、

「お」の字を言わんでいい

と言うことになったわけよ。

奥さんが女中さんを呼んで、

「ほら、あんた、

豆は何処(どけ)漬けとったねぇ」て、

こう言うて、まあ、言うたらしい。

そうしたぎぃ、そのお手伝いさんが、

「けの中(なき)ゃあ」て、こう言うたわけよ。

そいぎぃ、その奥さんは、

「毛の中ゃあ」て、毛の所(とこ)て、

こう解釈したわけやのう。

ところが、その女中さんな

「お」の字ばとれて言うもんだから、

そいもんじゃい【それだから】、

桶(おけ)ていうのは、

「お」の字をとって、「け」て言うたわけよ。

下の句だけ言うて、そしてその、

笑ってしたということ。

[大成 三六八 鶯言葉]
(出典 多久・飯盛翁が語る佐賀の民話 P36)

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