神埼市千代田町城田出来島 西村ワサさん(明21生)

  むかぁし、爺さんと婆さんが椎拾いに行かれたそうです。

ところが、爺さんの袋には穴があいているので、

一向に椎が溜まらないそうです。

婆さんの袋は、すぐに一杯になったので、

「もう、帰ろうじゃっかい」と、お婆さんが言ったら、

「俺(おりゃぁ)、溜まらんけん、ここに泊まっ。

そこの観音さんの祠に泊まっ。そして、あしちゃぁ(明日)、また拾ってくっ」と、

お爺さんが言いなったけん、お婆さんは、

「そいぎにゃぁ、おりゃぁ【俺は】もう帰らやこて」と言って、

婆さん一人、帰ったそうです。

そうしたら、お爺さんは、その観音さんの祠に行って、

「観音さん、観音さん、今晩な、こけぇ泊めてくんさい。

こげんして椎拾いに来たばってん、まぁだ一杯にならん。

明日また拾おうと思うとっけん」と頼んだら、

「泊まったぁ、良かばってんが、こかぁのう【ここは】、

夜遅うに、恐ろしか音のして、鬼どんの来っ。そいでもよかか」と言われたので、

「そいでよかけん、泊まらせてくいろ」と言ったら、

「そいない、おい【俺】が後ろに隠れとけ。隠れ蓑とか隠れ笠とかあっけんが」と、

観音さんに言われて、観音さんの後ろで寝ていたそうです。

そうしたら、夜更けになって、

ドンドン、カンカン、ヒューロロと音がしたそうです。

それで、何が来ただろうかぁ、

「鬼が来っ」と言われていたから、青鬼どんが俺(おい)を

食べはしないだろうかと思って、観音さんの後ろに、

ジーッとして隠れていたら、夜明け前に、まだ朝にならんないのに、

観音さんが、

「コケッコー」と鶏の鳴き声を真似して鳴かれたそうです。

そうしたら、

「もう、夜の明くっぜぇ」と言って、

鬼どもが、道具は全部そこに置いて、逃げていったそうです。

そうして、鬼の置いて行った道具や宝物をもらって、

次の日に帰って行かれました。

そうして、帰ってきて、

「俺(おい)は、ゆうべのう、お観音さんとこに泊まっていたら、

夜中に、とてもやかましゅうして、ドンドンカンカン、ヒューロロ、て

鬼がいっぱいやってきた。そいで【それで】、お観音の、

『コケッコー』って鳴きなったぎぃ、道具ば、全部(すっぴゃあ)

置いてはしったぁ【逃げて行った】。

そいで、お観音さんの、『持っていけ』て言いなったけん、

鬼どんの置いていった道具とか宝物とかもろうてきた」と、

お婆さんに言われたそうです。

そうしたら、お婆さんが、

俺(おい)も、そけぇ【そこに】泊まってくりゅうだぁ、と思って、

今度は自分の袋に穴をあけて、椎拾いに行って、

そうして、日がくれたので、お爺さんが、

「帰っ」と言いなったら、

「お前さんは帰っござい。おりゃぁ【俺は】こけぇ泊まっ」と言って、

お観音さんの祠に泊まりなったそうです。

そうしたら、お観音さんも、お爺さんと同じように、

「鬼の来っけん、おい【俺】が後ろに隠れとけ。

隠れ蓑と隠れ笠のあっけんが、そけぇ寝とれ」と言われたけれど、

夜が明けようとするけれど、鶏の鳴き声をしようとしないそうです。

それで、お婆さんが、自分で

「コケコッコー」と鳴いてから、つい

「クス、クス、クス」て笑ってしまったそうです。

そうしたら、

「こりゃぁ、何かおっばい【おるぞ】」と言って、

お観音さんの後ろに回ったら、お婆さんがいたので、

お婆産を引き裂いて、食べてしまったそうです。

だから、

「人真似は、すっぎいかん」と言われて、聞かせられてましたよ。 

(出典 千代田の民話 P149

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