唐津市高島 野崎力蔵さん(明45生)
按摩さんがその、盲の按摩さんが杖、ゴトゴトなんしてあん、
「痔ば悪いと」と言ってね、であの、茄子(なすび)、あればさね、
「茄子(なすび)ば尻の穴にこもうはさんでおくと痔が治る」ち、
言いよったですもん、昔は。それでね、勘右衛門さんが後ば、
按摩さんの後ばやっぱし行きよらしたつっちゃろたい。
「こんなところにぎゃんもったいなか、
味噌漬けちいうたら金ば幾ら出したて、
わてどんが口にははいらんとばい」
て、こぎゃん味噌漬けば、お茶かて幾らち、洗わずそのままね、
カプンと食うたて、按摩さんが尻から落とした味噌漬けばですよ。
そうしたところが、按摩さんが捜しよらすちいうもん。
ぎゃんあして、目ばはめぐって、そいで足音ば、按摩さんは足音ば、
按摩さんは、ちょっと人の気配ばして、
「もしもし。この辺(へん)に、あの、
茄子の味噌漬けは拾(ひら)わんやったですけ」
て、言わしたて。
「ああ、そりゃあ今、ここんとこん誰か落ちとっちゃったもんで、
もったいなかと思って、私が食べてしもうとったばい、
ひもじかったけんで」。
「そう、どうちゃるこっちゃるるこつか。
そりゃあ私が痔の病気を治すために、
ズーッと一か月も二か月もはめちょるときでー」。
(出典 未発刊)