唐津市肥前町納所 井上幸一さん(明20生)
むかし。
欲な和尚さんがおったちゅう。
どころが、そん、何(なん)の、小僧が飯ば
どがしこ炊こうか、どがしこ炊こうか、
年中和尚さんに尋ねて炊きよったそうな。
ところが、和尚様が言わすことにゃ、
「俺(おり)が指ば一本、こうした時にゃ一升炊き、
二本した時ゃ、二升炊き」て、こう言うとらす。
そいけんそのとおりにした。
ところが和尚が今度、便所に行かしたところが滑くり倒やあち、
「小僧来い。小僧来い」て、叫(おら)ばしたて。
「はい、はい。何事てでござるか」て、こう行たてみた。
そうしたところが、そん、何ば手も足もささげておおなきなっちょらすちゅうもん。
そうして見たぎんと、小僧が、米ば一とうも炊(ち)ゃあちぇ。そいから和尚が、
「わが、どがんしょる」
「はい。あなた、おっしゃるごて飯ば炊きよります」
「そういうことのあるもんか」
「俺が手上げとっじゃなかとじゃあ。俺がはねくりかえっとたとじゃあ」
「そうなたん、手ばささげた時ゃあ、そがんすっ」
そうして飯ば大釜(ううかま)さんに炊きよったという話。
ちょっと昔話たいなたあ。
(出典 未発刊)