唐津市相知町伊岐佐上 能隅 進さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

唐津の裏町というところに、勘右衛門という人が住んでいた。

ある日、筑前の大ほらふきが裏町の勘右衛門という

ほらふきの名人がいるということを聞いて、ほらふきの試合にやって来た。

筑前の大ほらふきは、橋の渡しのところで魚を網ですくっている子供に、

「こら、こら。裏町の勘右衛門どんの男のおるちゅうとが、

どこんにきか、その男の家は」と聞くと、

「裏町の勘右衛門というたぁ、うちの親父じゃい。おれは勘右衛門の息子たい」

と、子供は言った。

「おとったんな、きょうはおらすかのう」

と、筑前の大ほらふきが開くと、

「いんにゃ。きょうはうちのおとったんな、よそさい出ていかした」

と、子供が言うと、

「何しに行かしたか」

と、筑前の大ほらふきはたずねた。すると、

「うちのおとったんな、こないだ大雨の降って、雷さんが落ちたもんじゃい、

山の崩れるごとなったもんじゃい、線香を三本持って山をつっ張り行かした」

と、子供は答えた。

「かぁちゃんはおらっそうのう」

と、筑前の大ほらふきは聞いた。

「いんにゃあ。かあちゃんも出て行かした。かあちゃんは、

『あまり長く雨の降って雲の破れおろうごたっ』と、

木綿糸と針を持って雲の破れたところを縫いぎゃ行かした」

と、子供は答えた。

筑前の大ほらふきは、こんな子供でもこんな大ほらをふくから、

勘右衛門には到底かなわないと思って、逃げるようにして帰ってしまった。

そいばあっかい。

(出典 佐賀の民話第一集 P177)

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