三田川町力田 平井ワカさん(大9生)
むかし。
「親ば捨てろ」ち言(ゆ)うて、殿さんの言いないよったぎとは、
ずうっと親ば捨てよったぎとは、あの、隣の国から、あの、何(なん)か
難題ばっかい持ってくっですもん、攻めて来(く)うで思うて。
そうして、そがんして、あの、灰で綯(の)うた縄やれてんが、
難題ばっかい言うて来(く)っ。
そいぎとは、あの、いっちょいっちょ、お母(か)さんば、あの。
大体一人(ひとい)お母さんば隠しといなったやろう、捨てじぃ。
地下室のごたっ所に。
そいぎとは、あの、その人に、いっちょいっちょ、お母さんに聞きぎゃ行きなっとに、
そがな難問なごっとい言いなっもんじゃろう。
あの、殿さんが、またこの人ば呼び出して、あの、何(なん)でんその人から聞きないよったて。
そうして、
「お前(まい)どがんあがんと、なしそがん知っとっかあ」
ち言(ゆ)うて、言いなたったぎと、
「はい。私(あたし)は、『年寄いば捨てろ』て言うことは、知っとったばってん、
あの、お母さんが、あの、何でんあの、余計年寄いの知恵で知っとんさっけんが、
ちょっと済まんばってん、私ゃ隠しとったあ」て言うて、あの、言いなったて。
そいぎと、
「隣の国も攻めて来(く)んない、こぎゃん頭の良か、良か者(もん)の
おっ国が、攻めたっちゃ勝たん」ち言(ゆ)うて、
向こうのあがんとは、殿さんが攻めて来(こ)んやったあ、ち言(ゆ)うて話じゃん。
[大成 五二三A 親棄山 AT九八一]
(出典 未発刊)