三田川町吉田 徳安達次さん(明37生)

 まず、あの、

「野狐が騙す」と言う話を聞いとっですもんね。

それで、私は騙されたことがない。

ところが、親父の話ではですね、あの、そこの吉野ヶ里ですね。

吉野ヶ里から向こうの神埼町の馬郡に行く所(とこ)ですね。あつこが、

今はもう、ご承知のとおり広々とある道で、昔ゃ、もう本当に吉野ヶ里と、

あの道は三田川で吉野ヶ里の倉私有地と言うように、非常に狭うして

木の生(お)えとっもんね。

それで、そこの西の方が西畑と言うことで、私の叔母が馬郡からじゃん。

そう言う風な関係で親父は、馬郡の方に櫨(はぜ)ちぎいに加勢に行きよったですね。

そいであの、西畑の櫨ちぎいよって、こう言うことがあった。

櫨ちぎいっ西畑高いと。

馬郡は西側の田圃(たんぼ)で低いと。

そうしたところが、櫨ちぎいよってですね、

田圃の道ば行たい来たい、こうやいよっ。

「ありゃあ、何(なん)しよっじゃろうか。さっから方(がち)ゃあから、

行たい来たいしよっ。おかしかにゃあ。ありゃあ、大方騙されちゃおらんか」

と言うて、櫨ばちぎいよった。大概(たいがい)見よったら、

いつのはじゃあじゃいのうなったち。そいぎぃ、

「何時ぐらいあろうか」と言うて、みたらもう、三時も過ぎとったね。

それで、櫨の木登って騙されとったね。

こうしよっとば一生懸命見よって、ご飯食べでん何(なん)でん忘れて、

そいばかい見おったとは

「自分が騙されとった」と言うような話をようして聞かせよった。

(出典 未発刊)

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