伊万里市波多津町煤尾(名前・年齢不詳)男女一名

 あるところに非常な親不孝息子がおりまして、

親父が仕事のでけんごとなって、飯ばかい食うもんじゃけん、

ご馳走になってでけんじゃあちゅうごたっ風で、

わが息子と二人でモッコで山さいのったわけ。

さて、よっこい爺やんをそけ下ろして、鍵かけて。

ところが、孫(うまご)が、その爺さんの孫がモッコばたから、

自分さい帰って言うたもんなあ。親父は、

「もう、いらん」ち。親父は、

「爺やんとモッコはいらん」ちゅうたところが、その孫が、

「いんにゃあ。お前(まい)、

年取ったら、このへんでもって戻らんこて」

て、息子が言うたところが、親父さんが、

「ああ、そうかにゃあ。わがで藁打ちして、そりゃでけん」

ち、またその親父を自分の家(うち)連れて帰って、

親孝行した話を何処かで聞いております。(男談)

家さん帰ってから、あの、何処にもおかれんけん、

床(ゆか)ん下に、あの、隠して。

そしてご飯どもやりよらしたて。そしたら、お殿様が、

「灰で縄を綯(の)うて来い」て、あの、注文のあったて。

そいどん、

「どぎゃんして灰で縄綯うかち、じゃったら、

婆ちゃんにいっちょ聞いてみようか、年寄りでじゃるけん」

ち言うて、聞かしたら、

「その、りっぱに縄ば綯(お)いちょって、家ば作るぎにゃ、

立派に縄で綯(の)うたごとなる」て、教(おそ)えらしたけん。

そぎゃんして動かさじぃ、あの、持って行たら

灰で縄綯(の)うたごとなったけん、その殿様にそぎゃんしたら、

「こりゃもう、どぎゃんしてあの、縄綯(の)うたか」

て、言わしたら、

「あの、ぎゃん年寄り婆ちゃんば、邪魔してばかり、

あの、可哀相じゃったけん、連れて来て自分の隠しとっ分、

その婆ちゃんの教(おそ)えらた」て言うたら、

「そいけん、年寄りはそぎゃん何(なん)でん知っちょんなら、

もう婆捨て山にやることじゃなか」て、

それから許してくれらしたて。(女談)

そいから姥捨山はなくなったて。

(出典 未発刊)

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