武雄市西川登神六 前田庄三郎さん(明20生)

 むかし、むかし、あるところに

お母さんが子ば持って、

そうして、秋時分に出かけてなたぁ、

山姥から殺されて、

子どんが寝とっとこりぇ、行くて。

そいて、

「今、帰ったばーい」て言うて。

そいぎ、

「母ちゃんじゃいなかたいねー、

母ちゃんじゃなかたいねー」

て言うたいね。

そいぎ、山姥が、

「いんにゃぁばい、母ちゃんばい」て言【ゆ】うて、

家に入って来たて。

そうして、子どんと寝取らしたて。

そいぎぃ、山姥が、

小さか方を訪んねよったので、兄貴どんが、

「何【ない】ば、母ちゃん、たんねよっかい」

て言うたてなたぁ。

そいぎぃ、

「隣から、口笛吹いてたんねよったい」て言うたて。

そいぎ、

「あの、小便したか」て言うて、

そいて、兄弟して、小便しや立ったて。

そいて、小便はせじ(しないで)、逃げたて。

そいで、逃げて行たぎぃ、

よかんびゃぁに(ちょうど良く)

柿の木があったので、

その柿の木に登って、

そん下に掘【ほい】のあったそうですもんなたぁ。

そいぎ、山姥は、

幾ら待っとても帰ってこんもんじゃっけん、

「子どん、子どん」

て言うたいどん、帰ってこんもんじゃいけん、

外に出てみらしたいぎぃ、おらんちゅうもんなたぁ。

そいけん、おらんもんじゃっけん、

何処さいいたろうかにゃぁ、

何処さいいたろうかにゃぁ、

て思うて、捜しよったて。

そいぎ、

えっしゃー(怖くて)

だまーとったぎ(静かにしていたら)、

影法師の堀に映ったのを見て、

弟の方が、クスクスクスて笑うちゅうもん。

そいぎぃ、見つかって、

「どがんして上がったかぁ」ち言うたぎ、

「隣【とない】から油ば買【こ】うてきて、

流ぎゃぁて上がった」て、兄の方が言うたて。

そいぎ、

山姥がそがんしたばってん上がられんもんじゃい、

また聞いたぎ、弟の方が、

「鉈で型つけて上がった」て言いなったけん、

山姥は、鉈で型付けて、

スルスルスルスル上がってきたちゅうもん。

そいけん、

「どがんしゅうかにゃぁ」ち言うて、

「天道さん、天道さん、可愛かない、

金の鎖ば降りぇてくいろ、

可愛かなかない腐れ縄ば落てぇてくいろ」

て言うてなたぁ、

そいぎぃ、金の鎖のガランガランていうて、

落てぇてきたちゅうもんなたぁ。

そいぎぃ、二人【ふたい】して、

そいにかがいちいて登ったてなたぁ

そいぎ、山姥も同じ【おんなし】こと、

そがん言うたちゅうもんなたぁ。

「天道さん、天道さん、可愛かない、

金の鎖ば降りぇてくいろ、

可愛かなかない腐れ縄ば落てぇてくいろ」て

そいぎぃ、今度【こんだ】ぁ、

バタバタバタで腐れ縄の落りぇてきたちゅうもん

そいけん、

それにかがいちいて(しがみついて)

上がいよいらしたぎぃ、

縄の切れて落ちたて。

そいぎぃ、落ちて、下に黍があって、

そけぇ山姥が落ちて、

血が飛び散ったので、ありゃぁ、

黍の根は赤【あこ】うしとって、

ゆう聞いたもんばんたぁ

そいばぁっきゃ(それでおしまい)

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p117)

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