武雄市西川登神六 前田庄三郎さん(M20生)

 むかし、むかし、あるところに

お母さんと兄弟の子供が二人おいなったそうです。

ある年の秋頃になたぁ、

お母さんが外に出かけとって、

山姥に殺されたそうです。

そうして、山姥は、

今度は、子供を食べようと思うて、

兄弟だけで留守番していた家にやって来たそうです。

そうして、山姥な、お母さんに化けて

「今、帰ったばーい」

て言ったところが、最初のうちは、

「母ちゃんじゃいなかたいねー、

母ちゃんじゃなかたいねー」

て言いよったけれども、山姥が

「いんにゃぁばい、母ちゃんばい」ちゅうて、

無理やり家に入って来たそうです。

そうして、一緒に寝ていたら、音のして、

山姥が何か探しているようなので、

「母ちゃん、何【ない】ば、

たんねよっかい(探しているのか)」

て言うたら、

「隣から口笛吹いて、たんねよったい」て言うて、

それで、山姥て分かったそうです。

それで、

「小便したか」て言うて、兄弟二人で外に出たら

ちょうどいい所に柿の木のあったので、

その上に登っとったそうです。

その柿の木の下には、堀のあったて。

そうしたら、山姥は、

子供達がいくら待っても帰ってこないので、

「子どん、子どん」て呼ぶけれども返事かないので、

外に出てみたら、いない。

それで、

「どこさい行たろうかにゃぁ、

どこさい行たろうかにゃぁ」ちゅうて、

柿の木の近くを探しよったそうです。

そいで、兄弟は怖くて、

最初は、だまーって(しゃべらずに)

静かにしとったけれども、

堀に、自分達の影法師が映っているのを見て、

弟の方が、つい、

「クス、クス、クス」

て笑ったので、山姥に見つかったそうです。

それで、山姥が、

「どがんして登ったかぁ」て聞くので、兄の方が

「隣【とない】から油ば買【こ】うてきて、

流ぎゃぁて登った」

て言ったそうです。

そうしたら、山姥が、

そのようにして登かうとしたら登れないので、

また聞いたら、弟の方が、

「鉈で型付けて(登り角を付けて)登った」

て言うたそうです。

それで、鉈で型付けて、スルスルスル、

山姥が登ってきたので、

「どがんしゅうかにゃぁ」ちゅうて、

もう、天に向かって、

「天道さん、天道さん、可愛かない(可愛いなら)、

金の鎖を落てぇてくいろ(下して下さい)。

可愛かないない(可愛くないなら)、

腐れ縄を落てぇてくいろ(下して下さい)」

て頼みなったそうです。

そうしたら、

鎖のガランガランていうて降りてきたので、

兄弟は、

それにしがみついて登っていきなったそうです。

そうしたら、山姥も同じように

「天道さん、天道さん、可愛かない(可愛いなら)、

金の鎖を落てぇてくいろ(下して下さい)。

可愛かないない(可愛くないなら)、

腐れ縄を落てぇてくいろ(下して下さい)」

て、言いなったそうです。

そうしたら、今度ぁ、バタバタバタて、

腐れ縄の降りてきたそうです。

それで、山姥は、

その縄にしがみついて登っていたら、

途中で、縄が切れてしまったそうです。

そうして、落ちた所に黍(きび)があって、

その黍(きび)に山姥の血が飛び散ったて。

それで、

黍の根は赤くしていると聞いたことのあるよ。

そいばぁっきゃ(それでおしまい)

(出典 佐賀県文化財調査報告書 第71集「~矢筈・神六の民俗~」p117)

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