神埼市千代田町城田丁太田 島正幸さん(大12生)

  あるところで、山賊がな、山の中で、

お父さんと娘の子連れを襲って、親父の方を殺したそうです。

そうして、親父は殺して、あり金をみんな取ったけれども、

その娘の子は、綺麗だったので、自分の嫁さんにしとったそうです。

その娘の子は、折があらばお父さんの仇をとろうと思っていたそうですが、

その山賊が強くて隙がない上に、

いつも可愛がられるもんだから、情が移ってきたそうです。

それで、その山賊も、

「そろそろ、こういう仕事は止めんばでけん」

と言って、その娘と所帯を持ったそうです。

そうしていたら、ある雨の晩に、盗賊が

「剃刀で髭剃ってくいろう」て、その娘に頼んだそうです。

そうして、髭を剃ってもらいながら、クスクス笑ったそうです。

「本当(ほん)に、こういうこともあったなぁ」と言って、

「俺(おい)があの親父を殺した時は、山ん中じゃっけん、

誰(だい)も助けてくれるもんのおらん。

そうして、雨上がりで、水溜まりになたぁ、

ボットン、ボットン、て雫が落ちよった。

そいで、もう、誰に助けを求めようもなしぃ、

『ぼったん、助けてくいろう』て、その親父がこう言うたと」と、

つい言われたそうです。

そうしたら、その娘が、

「この男は親父の仇じゃったぁ」と言って、持っていた剃刀で、

喉を切って、仇討ちしたという話を聞きました。

裏の家のお爺さんが、この話ばかりをいつも聞かせてくれました。 

(出典 千代田の民話 P106

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