神埼市千代田町城田迎島 島イサさん(明21生)
むかぁし、ある所に、良いお爺さんとお婆さんがいました。
ところが、貧しい暮らしをしていて、
「本当(ほん)に、婆さん、婆さん、正月の来(く)っのに、餅もたけん。
どがんしたらよかろうか」と言われていました。
それでも、餅つき杵だけでも、作ろうということになって、
山に、木を切りに行ったそうです。
昔は、こーまか【小さい】餅つき杵というのを作っていましたから。
そうして、お爺さんが、餅つき杵を作る山の木を切って、帰りながら、
「餅つき杵、切ったれども、何で年ぁと-ろーかい」と、
ズーッと言って帰ってきていたら、橋の上まで来た時、
「粟んでくっさん、米んでくっさん」と言う声がするので、
何だろう?何がこんなに言っているんだろうか?と思って、
橋の下を見たら、そこに、グウズ【山亀】がいたそうです。
そうして、お爺さんが、
「餅つき杵、切ったれども、何で年ぁとーろーかい」と言ったら、そのグウズが、
「粟んでくっさん、米んでくっさん」と言うので、
「こりゃぁ、良か。
こいば連れて、大石や南南里からないとさるいたら【歩いたら】、
餅米ば貰らゆっかもしれん」と言って、
お爺さんが、そのグウズを連れて、一軒一軒回って、
「餅つき杵、切ったれども、何で年ぁとーろーかい」と言ったら、グウズが、
「粟んでくっさん、米んでくっさん」と言うので、
どこの家でも餅米をくれたそうです。
それで、餅米をいっぱい貰えたので、家に帰ってきてから、
「このグウズのおかげで、よか年のとるっ」と言われたそうです。
そうしたら、隣の悪いお爺さんが、それを聞いて、
「亀ば貸してくんさい」と言って、来られたので、
「そいなら、貸そう」と言って貸したそうです。
ところが、悪いお爺さんが、
「餅つき杵、切ったれども、何で年ぁとーろーかい」と言うのに、
何にも言わないそうです。それで、悪いお爺さんは、
「こげな【このような】ものは何になろうかい」と言って、
叩いて殺してしまったそうです。
そうしていたら、良いお爺さんがやって来て、
「あのグウズは、どうしたやろか」て聞かれました。
そうしたら、悪いお爺さんは、
「あたしが【私が】おんなし【同じ】ように言うばってん、
いっちょん【少しも】、なーんも【何にも】言わんけん、
火の中にくべっしもうた【燃やした】」と言われたそうです。
それで、良いお爺さんは、
「そんないば【それならば】、灰でんよかけん、くんさい【ください】」と言って、
グウズの灰をもらって帰りました。
そうして、その灰をショウケ【笊】に入れて、
桜の枯れ木に登っていたら、丁度、殿さんが木の下を通られたそうです。
そうして、殿さんが、
「そこにおる者は何者か」と言われたので、
「いつもの花咲き爺でござる」と言ったそうです。
そうしたら、殿さんが、
「花を咲かせてみろ」と言われたので、
パーっと灰を木にまいたら、桜の花のきれいに咲いたそうです。
それで、殿さんから褒められて、褒美を沢山もらったそうです。
そうしたら、また、隣の悪い爺さんがやって来て、
良いお爺さんからグウズの灰をもらって、真似したそうです。
枯れた桜の木に登って、灰をまいたら、
それが、殿さんの目に入ってしまったそうです。
それで、殿様が怒って、悪いお爺さんを刀で切ってしまわれたそうです。
それを、隣の悪い婆さんが、家の庭から見ていて、
「ほうら、うちのお爺さんな、殿さんから、
ほんに【本当に】何か良かご褒美ばもらいよんしゃっ」と言って、
帰ってきたお爺さんを見てみたら、
切られて血がいっぱい出て真っ赤になっていたそうです。
「そいけん、人のまねちゅうもんな、すっこたぁならん」
と言ってましたよ。
(出典 千代田の民話 P152)
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