三田川町上中杖上 諸隈貞夫さん（明38生）
迎さんの家(うち)、河童の爪があったんですよ。
私の部に。迎甚六さん方。
そいであの、話を聞きよったですもんね。
その河童の爪を煎じて飲むと、ワシズの薬ちゅうですね。
（喉のゼェゼェ鳴っでしょう。）
家(うち)のお母さんが、私の兄がコンコンコンでこずいて、
買(こ)うて飲ませたごとあっ。
爪をこう削って。
そして、あすこに河童の爪のあったかと、こう思いよったやん。
そうしたらね、迎さんの所は金持ちさんですもんね。
地主さんで、私どんの子供時分は、田んぼ十町ぐらいあったですよ。
そいでその、おそらく金持たんだったから、あすこんにきの、
あの、市武大官所てありますね。
あの代官所の役人さんじゃい金借いぎゃ来とらんやったですかね。
そいで、ある日ですね、直代てありますもんね。
その直代のほんな、あの、角ん所に大きな井(い)樋(び)があって、
そりゃあ、大きな堀(ほい)が流れとっですよ。
そして、二人（ふたい）がかいに井樋があって、そっから落ちよっですよ。
その井樋の岸ん所に河童が上がっとったて。
そいでね、大きなぼんこちゅうごたっふうで、
その、鉄砲で撃ったわけですな、代官所の役人が。
そいで、取ったのをお金の代わりにやったちゅうわけ。
そいで、あそこは河童の手のあるんだちゅうて、聞いとったですね。
実際あったんですよ。
そいで、河童はもう、川うそちゅうか、その河童ね、
あれはもう、おったのは事実ですねぇ。
（出典 未発刊）
