嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

「蝿(はえ)という字は知っとっかい」て、ある人が言んさった。そいぎぃ、

「こう、うるさかもんなあ」て。「もう、たとえ、一匹おってもさい、ほんに気になんもんねぇ」て。

「何処(どこ)さいでん飛うでさりいて、きれいかご馳走の中(なき)ゃあ、上に止まっとっかあ、と思いよっどん、便所にも止まったいすっけん、こいよい汚かなことはなか。そいどん、蝿の止まっとっとば、ジーッと見てんやい。蝿はこう両方の手で、手を擦(す)っごとスルスルスルーって、手を擦っごとしおろうがあ。そりゃ、手じゃいろう、足じゃいろうわからん。足を擦っごとしおっこちゃいわからん。また、手で拝むような格好ばしおごとも見ゆってもんねぇ。あいどん、またいっちょうは、良(ゆ)う昔ん者は見とんさいたあ」て。「縄(なわ)綯(に)ゃあよっごとしおったい。確(たし)きゃあ、あの、蝿は縄綯う格好ばしおっばい」て言うて、昔の人はねぇ、蝿も小(こま)ーかけん小ーかとも虫て。そいで虫の字ば横しの方にくっつけて、「はえ」て読むごと昔ん者はしんさいたてよ。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P633)

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