嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

お正月にはさ、何処(どっ)から来(く)っとこっじゃい、

三人組のねぇ、気色に面白か面ば被ってさ、

「やれ、めでたいな、めでたいな。福の神さんが舞い込んだ。

まーだおめでとう。三河万歳でござーい」

ち言(ゅ)うて、やって来おったちゅう。

何処の家でも回ってお祝儀貰いよったて。

そいぎぃ、ある年の正月やったて。

そいぎねぇ、あの、弘法大師さんのお寺さんに

ちょうど泊まっとんさったて。

長(なご)う来(き)とんさったて。

正月にいちなったて。

そいぎぃ、そけも三河万歳の人がやって来たちゅうもんねぇ。

そうしてねぇ、言うことにゃ、

「やれ、めでたいな、めでたいな」ち言(ゅ)うて、やって来たて。

そうして、話行きおったぎぃ、

「そのお寺にはばい、あの音に聞こえた弘法大師さんが、

あの、逗留しとんさっ」て聞いて、その万歳師どんが聞いた。

「ありゃあ。あんない正月早々、ぎゃんめでたいことはなかあ、

私(わたい)どま、ぎゃんやって筆、あの、

のぼいば担(かつ)いで歩(さあ)きよっばってん、

何(なーん)もこの旗には書(き)ゃあちゃなか」て。

「いっちょ弘法大師さんな筆の上手てじゃっけん、

書ゃあてもらおう」て言うて、お頼みすっことなった。

「ただいま参りましたのは、我が我がお正月には何時(いつ)もお世話に、

何処(どこ)のお家(うち)にでも福の神が舞い込むように、

お世話になっているえかた報賽(ほうさい)でございます」て。

「実は、ここに持って歩く旗には何(なに)でん書いてございませんから、

誠にぶしつけなお願いございますが、皆にわかりように、

この旗にいっちょ字ば書ゃあてはおくんさんみゃあかあ。

私(あたい)どまあ、えかた報賽でございます。

よろしゅうお願いします」言うてねぇ、あの、弘法大師さんに頼んだて。

「よし、よし。お頼みとあらば、願いを聞き届けよう」て言うて、

「筆をもて」と言うて、書きんさった。

そいば見たぎぃ、この人達ゃねぇ、

「やれ、めでたいな、めでたいな。福の神さんが舞い込んだ。

まーず、おめでとう。えかた報賽ー」ち言(ゅ)うて、来おったてやんもん。

そいぎえかた報賽ち書いてくんさい、て頼んだぎね、

言うたぎぃ、点ばいっちょ落てぇたて。

そいぎぃ、どぎゃん読んでもねぇ、えかた万歳て。

そいからえかた万才になった。宝の字の点ばいっちょ落てぇとっ。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P728)

標準語版 TOPへ