嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
お宮さんに雀がいたて、何時(いつ)うでんおらんごとないよったて。
あいどん、無(の)うないよったぎぃ、
ある日のこと、田代の入れ薬屋さんが、その村に泊まって、
「私も温(ぬく)うしったまらん、夕涼みしてから、
そいで体どん冷(ひ)やあてから一緒に休もう」ち言(ゅ)うて、
行ったぎね、その誰(だい)でんおろーちーて帰いさみゃ帰んさったて。
その、無(の)うなんみゃあだい、不思議かにゃあ、と思うて、その人は
「ほんに涼しかったよう」ち言(ゅ)うて、
しよったぎんたが、太かとの出てきてガブッて飲んだて。
そいぎねぇ、霜の時、気のちぃいて、毒薬ばねぇ、
こう振い散らかしんさったぎぃ、そいぎもう、
瞬(またた)く間(ま)に大蛇がこうこうしてねぇ、のたうち回って、
お腹が痛しゃあーグルグルしよったと。シャーッて水ん、あの、出たて。
そいと一緒にその入れ薬屋さんも飛ばされてねぇ、
そいぎ側にも尻尾ん辺(にき)からこの箱まで流れてきとったって。
「こりゃあ、何(なん)なあ」ち言(ゆ)うて、開けたぎ千両箱やったて。
そいで金儲けて、そいから先はねぇ、その大蛇は死んだいどん、誰(だい)でん、
「ああー、あの入れ薬屋さんな千両箱いっちょ儲けないた、我がも遅(おす)う帰ろう」
そいから先ゃ遅(おす)う帰ろうが流行(はや)ったいども、
大蛇は死んどったけんが、何事(にゃあごと)にゃあごとなかった。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P841)