嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしむかしねぇ。

子のでけん夫婦者(もん)のおらしたちゅう。

そいぎその夫婦者のねぇ、隣村に十三人も男の子ばあっかい

持っとっちゅうこと聞かしたもんじゃあ、

「そんないば、そっから一人(ひとい)ぐりゃあくいても良かいそうなもん」

ち言(ゅ)うて、話おったいどん、もう、

こりゃあ貰いぎゃ出かけてみんばあーわからーん、と思うてね、

大きか風呂敷包みにねぇ、子供の着物を買うて来て、

おもちゃどん入れて、そぎゃんとば背負(かる)うて、

そうーして、家しゃい行きんしゃったちゅう。

あったぎねぇ、そこの家に行たぎぃ、

そこのお父(と)っさんたんな留守じゃった。

そいぎ折角、誰(だい)ないどん子どんば折角くいてくんさろう、

と思うて来たいどん、お父さんのおんそらんじには、返事ばもらえんねぇ。

折角来たもん、泊まって聞いとこう。誰ないとん貰うていくて言うたいども、

一日(ひして)経っても二日経っても、お父さんの帰って来(き)んさらんて。

とうとう五日目に帰って来んしゃったあーて。

あったぎねぇ、その、聞きんさったぎぃ、その帰って来んさっお父さんな言んさんには、

「あんさん家(うち)には、家の子は一人(ひとい)連れて行たて、

子供の懐(なつ)くまで、今まで一緒に添うておったあ。

ようよう懐(なち)いたけん、帰って来たばんたあ」て、

言んしゃったあて。そいぎにゃあ、

「あらー、良かったあー。貰(もり)ゃぎゃも来(こ)じぃ、

くいてくんさんさったばあ(与エテクダサッタヨ)。

こいよい良かことはなか。良かったあ」て言うて、ほんーに嬉しかんしゃったて。

昔はねぇ、親が貰(もり)ゃあが来たところにの、

親が父親ばその、貰いっ子の家(うち)さにゃ行たて、

その、一時(いっとき)ばかいおる習慣があったて。

チョッと捨て子とも違うねぇ。

貰い子、そがん習慣じゃったあ、ていうことですよ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P840)

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