嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

山ん村に説教僧さんが、

(冬は良(ゆ)う何処のお寺でん説教のあいよったもんねぇ。)

駕籠(かご)で迎えられましたてぇ。

もう曲い道ばっかいやったて。

その上、冬じゃったけん、雪があっちもこっちも残っとったてぇ。

そうしてもう、その木の上積もった雪も駕籠に

ドサッ、ドサッて、木の枝から落ちてくってじゃっもん。

そいぎぃ、その駕籠さい、底がちぃ抜けたてぇ。

そうして、道も泥んこやったてじゃっもんねぇ。

悪か時は困ったもんで道はドロドロ、

袈裟は泥だらけ、チョッと困んさったと。

もう見よったぎおかしかごともあるし、気の毒(どっ)かごともあるしねぇ。

そいぎぃ、駕籠かきどんが、

そのへんから縄ば拾うて来て、縦横十文字にシッカイからげて、

「和尚さん、もう大丈夫。早(はよ)う乗ってくんさい。

こぎゃん寒かもん」ち言(ゅ)うて、

駕籠に乗せて、駕籠かきどんがねぇ、また担いで、

「早(はよ)う乗んさい。大丈夫ですよ」ち言(ゅ)うて、

担いで行たぎぃ、途中で会う村ん人達のさい、

あの駕籠ば見っぎねぇ、笑うちゅう。一人(ひとい)の人がねぇ、大声で、

「ありゃあ、ぎゃん寒かとに死人の担がれて来(き)おんねぇ」

て言うて、振り返って相手(やあて)に話すちゅう。

そうして、駕籠に手ば合わせて、

「アマイダー、ナマイダー、ナンマンダー、ナンマンダー」

てね、念仏ば言うて。

そいでまた、駕籠のズーッと行きよって。

駕籠ん中の和尚さんは、ありゃあ、我がば死人て間違えたばいて

思うとんさったいどん、声ば高(たこ)う出(じ)ゃあて、

「エヘン」て、言んさったてじゃっもんねぇ。

咳払いしんさったて。

あったぎぃ、道ん際(きや)あ、

よけとった爺さん達もまた、声ば聞いてビックイして、

「ありゃあ、死んだ者(もん)と思うとったぎぃ、

ありゃあ、罪人じゃったばい。声の聞こえたねぇ。

駕籠ん中から咳払いの聞こえたばーい」て言うて、

話すもんじゃい。そいがまた、和尚さんに聞こえたけん、

「私は、科人(とがにん)じゃなかぞう」て、

叫(おら)びんさいたて。そいぎぃ、爺さん達ゃ、

「確きゃ、気の狂うとらす。気狂(きちぎゃ)あばい」て言うて、

すれ違うて駕籠ば外から荒縄でかざげちゃっもんじゃい、

誰(だーい)が見たっちゃ死人運びじゃい、

また罪人運びじゃいしきゃあ思われんごたっふうじゃったて。

中味んことは良(ゆ)う見えんもんじゃね、誰(だい)でん、

「ありゃあ、死人じゃろうか、罪人じゃろうか」て、声んしたけん、

「気狂あばい」て言うたて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P838)

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