狐の嫁入り

狐の嫁入り

嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

少し、薄鈍(うすのろ)のふうけ者(もん)【馬鹿者】が、

むかしむかしいたそうです。

どこにでも少し頭が足りなさそうな人はいるんですよね。

それで、少しどころじゃなく、ポカーっと穴が開いたような

ふうけ者(馬鹿者)さんがいたそうです。

それで、余り仕事もしないで、

その辺りをブラブラブラ歩いていたそうです。

その、ふうけ者がね、山道を歩いていたら

たくさん熊笹(くまざさ)があるところの辺りまで来たら、

サワサワサワと音を立てながら、

きれいな十七、八の女がでてきたそうです。

ありゃあー、きれいな女がこんな藪の中から出て来た、

連れでもいるのかなと思って、

また一時(いっとき)ばかり見ていたら、

その女は、その辺の木の小枝をチョコンと折って、

頭にピョッと挿したら、

きれいな花簪(はなかんざし)になったそうです。

「また、まいっちょ」と言って左の方からも取って

左の方の前髪のところに挿したら、

今度はきれいな梅の花のような簪になったと言います。

あれは本当のように見え、手品の本物の簪のようだと思って

ふうけ者は見ていたそうです。

ところがねぇ、歩く格好と言えば、

ピャーンと跳んでいるようでした。

それは、少し一間ばかりで

それから先はシナシナシャラリと、

とても女らしく歩いて行くそうです。

そうして、一時見ていたら、

長持ちや酒樽など、たくさん持った人たちが

向こうの方からやって来たそうです。

紋付を着ていた人や提灯持ちさんまでいたそうです。

そうして、立っていた女を駕籠(かご)の中に入れて、

担いでズーッと長い行列が行ったそうです。

これは、ものの見事な行列だ。

それで、三々九度の盃をするのを見ないといけないと思い、

その、ふうけ者さんはズーッと着いて行ったら、

大きい家の道があったそうです。

あーら、ここに嫁入りをやっているから、邪魔だな。

こりゃあ、大変だ。

これを避けていかなければと思って、着いて行っていたら、

中が見えないくらいの大きい家にみんな入って行ったそうです。

それで、小さい穴があったから、

そこにしゃがんで一生懸命に見ていたそうです。

すると、赤々と照らされた座敷に

ご馳走のご膳を運んで来るものは女たちでした。

そこには嫁さんも座っていたそうです。

ふうけ者さんは、こんなにぎやかな嫁入りは初めてみたと思い

一生懸命に見ていたら、誰かが

「おい、おい。何(なし)そこば、そぎゃん、

何時まででん屈(かが)い、ちいとっこう」

と言って、後ろから強く怒鳴りつけるものがいたので、

「あん」ち言(ゅ)うて、

後ろを見たら、隣のおじさんが

「お前(まり)ゃ-、何時まで夜(よ)のよいして

ぎゃん所(とこ)ば見おっかあ」

と言われたので、そこを見てみたら、

お宮さんの灯籠(とうろう)の火を灯(とも)す所の丸い所から、

一生懸命にお寺の屋根を見ていたそうです。

「もう、こぎゃんこたあ、なかったいどん

今までちょっと見て見事な嫁入りのあいおったけん、見おった」

と言ったら

「何(なーん)もあんもんかあ。ここはお寺たあ」

と言って、隣のおじさんから、

すごく馬鹿な上に馬鹿のように言われ、

それで、叱られて目が覚めたようになり、

その辺りを見ても、嫁入りも何もやってない。

夜が明けて朝になり、お宮さんのところで、ふうけ者さんは

未だ、狐に騙されたと思って、ボーっと立っていたそうです。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P828)

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