嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある所にもう、恐ろしか馬鹿の脳足らずのぐつちゅうとがおったて。

そいぎぃ、おっ母(か)さんが、お父さんが死んで四十九日ばせんばらんもんだから、

「ぐつや、ぐつや。あそこにあの、和尚さんば、

今日はお経さんば上げてもらわんばけん、行たて来てくれ」て、頼みさいたて。

「はい、承知した」

「よう、わかったなあ。ぐつや、わかったなあ。

お寺に行けば和尚さんがおらすけんなあ」ち言(ゅ)うて。

「和尚さんな、どがんしとらすか」

「黒か衣ば着とらすとが和尚さんたあ」

「おう、わかった、わかった」ち言(ゅ)うて、

自分の家(うち)を飛び出しました。

そいぎねぇ、ぐつがズーッと行きよったぎぃ、

黒ーか牛のおったちゅう。お寺の門の近くに。そいぎぃ、

「和尚さん、和尚さん。おっ父の法事だけん、

明日(あした)は来てくれやあ」て、言うたら、

「もうー」て、言うたて。

そいぎぃ、わからしたもんだと思うて、また家(うち)に帰って来たぎぃ、

「ちゃーあんと、和尚さんに言うたなあ」

「あの、黒ーかとば着とらしたとに言えば良かでしょうだーい」て、言うたら、

「うう、そう。和尚さんない何時(いつ)でん黒か衣ば着とらす」

「そいぎ言うたら、『もう―』て、言わした。

「『もう―』て、言わしたとう。そりゃ、おかしかない。

ほんなこて使(つき)ゃあは言うたかあ」て。

「うん、言うて来た。確かに安心して良か」て言うし、

法事の用意して待っとっが、なかなか和尚さんが来(き)んさらん。

お母さんの、おかしかねぇ、と思うて、問い合わせてみたら、

何(なん)の、我が家(やど)の、馬鹿息子が牛にもの言うて来とったあ。

そいからねぇ、あくる日のことです。もう、おっ母(か)さんがねぇ、

「このご飯ば炊きおっとば、良(ゆ)うまんまのことば、

良う炊いて見よれやあ」て言うて、畑仕事に行きんしゃったあ。

あったら、そのぐつがねぇ、こう一時(いっとき)ばかい聞きおったら、

グツグツ、グツグツって、ご飯が煮えたて。そいぎぃ、

「この野郎」て、言うたけどやめんと。

「こら」て、言うても、蓋(ふた)ば取っても、

「グツグツグツ」て、言うもんだから、

そこん辺(たい)にある灰のあるしころパーッて、いっかけたら、

「グツグツ」言わんごとなったあ。

そいぎぃ、おっ母(か)さんが畑から仕事から帰って、もうご飯どまできたろう、

と思うて、蓋ば取ってみてビックリ、

「ぐつ、こりゃあ、どうしたとなあ」て、聞きんさったぎぃ、

「釜ん中で、『ぐつぐつ』私(わし)ん名前ば言うたから、

もう腹ん立ってさい、灰ばぶっかけた。

そいぎもう、言わんごとなったばい」て、こう言うたて。

馬鹿で仕様なかて。

そいばあっきゃ。

[三三三B 法事の使(AT一六九六)]
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P363)

標準語版 TOPへ