嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

辻の茶屋にねぇ、お月見の晩の秋の夕方なっぎぃ、

わんさと人の集まって来て、そこはお祭りのごと賑(にぎ)わいおった。

あーったぎねぇ、小(こま)か者(もん)どんも、

その、お月見にそこん辺(たり)行きおった。

「あらー、お月さんの大きか、きれいかねぇ」

ち言(ゅ)うて、皆、言いおったぎねぇ、

「お月さんは四斗樽もあっごと太(ふと)か、見事ねぇ」

ち言(ゆ)うてねぇ、皆が言いおった。

あーったぎ、はなたれ坊主が、ヒョッ見て、

「こりゃ、お月さんの二つ。ほらー」て、言うたぎぃ、

そいぎ坊主が指差す方ば見たぎぃ、その上にもね、

今のう四斗樽のそいよいかちぃっと(少しは)小(こま)かとの、

まん丸お月さんの真っ白かとの出とんしゃっ。

ありゃあ、お月さんの二つ。

半分になったお月さんな見たごとあっけど、

お月さんの二つ見たとは、今夜が初めてぇ」

誰(だい)でんそけぇ見おった者(もん)な、

ガヤガヤガヤ言いおったぎぃ、一時(いっとき)したぎねぇ、

その坂の上のお月さんの、ボボボボ、ボボボボて、坂ば転び出したちゅう。

そうーしてねぇ、じき側に谷のあったけど、ドシャーンと。

「おうーどう、お月さんのかっかえらしたあ」ち言(ゅ)うて、

皆、谷さいかけて行たてみたぎねぇ、

穴から精一杯膨(ふく)らました狸さんが、

そけぇひっくいかえって死んどったちゅう。

そいぎねぇ、もう村の者(もん)なねぇ、

「ぎゃん、沢山(よんにゅう)集まったけん、

狸公も村ん衆ば喜ばしゅうで思うて、

あぎゃん(アンナニ)して、ちい死んでしもうたあ」ち言(ゅ)うて、

「とても、この狸を狸汁どまされん」て、

手厚く谷に塚ば建てて、

「狸之墓」谷塚ちゅうて、供養してやらしたちゅう。

こいもチャンチャン。

[一二七 自然説明伝説(塚)]
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P814)

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