嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

あっちの城、こっちの城ちゅうて、お殿さんがおって、西の城のお殿さんと東のお殿さんの城と戦争ばっかいして、自分が領地を広げよう、自分が勝とうて、もう戦争ばっかい昔もあいよったと。

そうしたらねぇ、東のお城はとうとう西のお殿様に焼き討ちにおうて、城は焼けてしまったそうです。そうして後(あと)に残ったのが石ばっかいじゃった。その中には、お殿さんが恐ろしゅう大事にしとった三つの石があったてじゃんもんねぇ。その一つは、「鶴の石」ち言(ゅ)うて、鶴の形に似たような石。そいから、「亀の石」ち言(ゅ)うて、亀のこう、四つのお手を広げて、そして、地(じ)べたに這(は)ってるような石。そいからもういっちょ、丸か石のあっばってん、そりゃあねぇ、こりゃ何(なん)じゃろうかあ、大抵(たいち)ゃ、お殿さんのこれを撫(な)でて摩(さす)って可愛いがっておられたちゅう。皆(みーんな)、お城ん者の言いよったけど、

「こりゃ、何(なん)じゃろうかあ」て言うて、皆が不思議がっとったて。

そいで鶴のごたっ石は、もうおろうちぃて(急イデ)東の殿様が持って行たてしもうた。

「亀の石も、こりゃあ縁起の良かあ。こりゃあ、確かに亀のべっ甲の印の背中にあるけん、亀」ち。「こりゃあ、珍しか。ここん辺(たい)、めっちゃになか石」ち言(ゅ)うて。そうして、持って行たてしもうて、後に丸(まる)ーか石の残とったじゃんもんねぇ。

ところが、その石が恐ろしゅう大きゅうして、抱えもきらんのに、ある日、雨のシトシトシト降る日に、村人が四、五人通いよったぎぃ、向こうから何(なーん)か臼のごたっとのモソウモソウ来るちゅう。近づいてみたら、そのお殿様のお城にあった石じゃったあ。そうして雨の降るところに、ズルズル、ズルズルって、その何(なーん)も押しもせんのに石が一つ来(き)おったちゅうもんねぇ。

「不思議ねぇ、この石は。ぎゃん石の、自分の力で動くけん殿さんが大切にしとんしゃったつばいねぇ(シテオラレタノネ)」て、皆言いよったら、その日は夕方だったとみえて、またお天道さんがパーッて、明るく照った。その昼になっぎ石は動かんやったて。

「まいっちょ動けぇ。お前(まい)のノソノソ行くとば見たかけん動けぇ」て、もう男たち言うたけど、もう絶対動かんじゃった。

ところが、ある日、酔(よ)っぱらいさんが夜、雨のシトシト降る時に傘をささんで来(き)よったてぇ。そして、

「ああ、雨の止むぎ良かいどん」て言うて、石のこけぇあんもん。これぇ、腰掛けようと思うて、腰掛けたて。

そうしたら、その石のズルズル、ズルズルって、お尻の方から動いて行くていうもん、石が。不思議ねぇ。ゾーッとして、魔物。こりゃ、化け物石じゃろうかと思うて、その酔ぱらいはビックイしたちゅう。そいでも、「あの、いつも皆が、『動く』て、言いよんしゃったあ石に間違いなかいどん」て、言いおったら、それから雨がザーッて、降ってきたら、ドンドン、ドンドン川の方さい目掛けて、その石は行くちゅうもん。

「止まれ。川に入(ひゃ)あい込むけん止まれ」て言うけど、その石は止まらない。

そうしてもう、ドンドン、ドンドン、水はピシャピシャピシャしたのに、やっと小降りなって、雨がシタシタ、シタシタって、やんだら、その石も止まっていた。もう一尺もなかくらいで、池に落ち込む所で止まった。

「ああ、良かったあ。池ん中に入あってしまうぎぃ、あの石は目(め)ぇかからんごとなっじゃっけん、良かったあ」て、酔っぱらいさんは言って。そうして早(はよ)う帰って自分のお嫁さんに、

「石の動いたとば見て来たぞ。この目で確かに見たぞ」て、言うたら、

「ああ、あんたの酔っぱろうとったけん、石の動いたごとあったとよ。とても石の動くもんね」て、言うたら、

「いんにゃあ(イイエ)。動いた。あの動く石ば見た者は、何人でんおっもん」て言うて、その酔っぱらいさんは自慢したちゅう。

そいが、その村の評判になって、

「あら、殿さんなこの石ば撫でて大切にしょんさったたあ。確かに動く。動く石、雨に濡るっぎぃ、動く石じゃったか。それで大切にしよんしゃったとばいねぇ。なるほど、そうだ、そうだ」て、皆が言って。それは、「かたつむり石。雨の降っぎ動いて歩(さる)く。かたつむり石ばい」と言うて、そのお城にそれから先も、「かたつむりの石」ていうて、名づけた名物石があったそうです。

〔一〇六 自然説明伝説(石)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P797)

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