嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 あつこですよ。あの、伝説じゃろうか。あの、峠(佐賀県杵島郡白石町竜王)ばこう来(く)っぎね、ちかっと高(たっ)か所(ところ)にね、あの、学校の跡に鶏、あの、デグホンば沢山(よんにゅう)飼(こ)うとんさったけど、そぎゃん思うとったら、そぎゃんじゃなしぃ、昔はね、お婆ちゃん達の話ゃ、あつこは鶏御所ちゅう。そこん話です。

村にねぇ、古ーかお家(うち)の跡が残っとったちゅう。誰(だーい)も住んどらん、庭も立派か庭じゃいどん、荒れ放題。ところが、年寄い達の話ば聞くぎね、ここはねぇ、元、御所屋敷じゃったとよう、ちゅう話。そいぎぃ、その御所屋敷の話をします。

そぎゃん思うて見っぎぃ、泉水もあるし、回廊の跡らしか所(とこ)もあるし、石も太ーか巨石もあったい、そぎゃん所。そいぎねぇ、その話をすっぎねぇ。

むかーしむかし。

ある日のこと、馬に乗った立派なきれいか御公家さん達の、五人ばっかいそこにやって来てさい、そうして、

「我々は都ん者(もん)じゃ。少々頼みたいことがある」て、こがーん難しゅう言んしゃったて。そいぎぃ、

「何(なん)じゃいかんじゃいわからん」ち言(ゅ)うて、「もっと易(やさ)しゅう言んさい」ち言(ゅ)うて、訳ばいよいよ聞きんしゃったぎねぇ、

「私(あたし)達、自分達のこぎゃん田舎に来たとは、訳のあって来たと」て。「都の若君さんが病気さいて、そいば治すとには肥前の国の歌垣の国に住むことが、いちばん良かあー」ち言(ゅ)うて。「賀茂神社のお告げがあった」ち言(ゅ)う。「そいで、屋敷を構えるのに、何処(どこ)が良かろうかにゃあ、と思うて、今日探しにやって来たあー」

「そいぎぃ、『頼み』ち言(ゅ)うとは、そぎゃんことやろうかあー」言うことで、言んさんには、

「あの、ここはほんに空気の良(ゆ)うして、眺めも良(ゆ)うして良(よ)か」て、言うことやったて。そいけん、村ん者(もん)は、

「あんないば、元、御所じゃったち言(ゅ)うから、そこが良かばあーい」て言うて、村ん者も教えたもんじゃいさい、サッサと即座にそこに決まったあ。

御公家さん達の一行は何日でんかかって、また京都さい帰って、大工さんやら左官さんやら、大勢連れて来んさった。そうしてねぇ、もう沢山(よんにゅう)連れて来(き)んさったけん、立派な御殿の瞬(またた)くうちでき上がったて。それは見事なもん、田舎の壊れかかった家(いえ)ばっかいじゃった中(なき)ゃあ、もう目の見張っごと立派か御殿のできた。そうして、いよいよ都から若君さんが、大勢の家来ば連れてやって来んさったて。そいぎぃ、その方は大変良か人やったて。そうして、村の人達が可愛がったい、村に病人があるぎじき、自分の医者までやって、そうして治(よ)くにゃあてくいて、目の病気の人が尋ねて行くぎぃ、じき良か薬(くすい)ばしゃあて、目のパチーッて治(なわ)よったて。そいけん村ん者(もん)な、もう喜んで「何時(いつ)まっでん、ここにおってくんさっぎ良かいどん」て、願(ねご)うとったあ。

そのうちにねぇ、誰(だい)が言い出(じ)ゃあたこっちゃいろう、「あすこの御殿には、金の鶏(にわとい)のおってばい。その鶏のさあ、病気ば治す薬ば京都から運びよってたあーい」誰(だい)が見たこっちゃい聞いたこっちゃい、ほんなことんごたっ話が、スーッと広がったて。そいぎ村ん者達ゃ、その金の鶏ば一度でん良かけん、拝ませてもらいたいなあー」ち言(ゅ)うて、その御殿に、門の所に頼みぎゃ行たいどん、その御殿の人達、

「そぎゃん鶏は御殿には飼(こ)うとらん」て言うて、「何処(どっ)から話の出たこっちゃい」ち言(ゅ)うて、いっちょんうて合いんさらんやった。

そいどん、余(あんま)い村ん者の頼むもんじゃい、とうとうその、金の鶏をね、村ん者に見せるということになった。そいぎ村ん者達ゃ、「有難ーい。有難ーいことだ。ほんに村ん者な幸せに病気も治(なお)い、目の見えんともあかり、ぎゃん良かことはなかあー。金の鶏を拝んだだけで幸せの来(く)っ」ち言(ゅ)うごとして、もう拝ませてもらって喜んだて。

ところがねぇ、そのうち良か空気、良か眺めでおんさった若さんが、もう何年でんおんさったけん、大人になんさったて。そうして元気になってねぇ、そうして都さんもう帰られるようになった。その前の年、この金の鶏、御殿の松の木のねぇ、もうほんな根元ん所(とこ)で、金の鶏死んどったて。そいぎ村んとのねぇ、おささんと別れの悲しかったやろう。金の鶏の死んでしもうた」ち言うて、まっと(モット)悲しゃ誰(だい)でーん松の木の根元に集まって、その金の鶏を埋めて、お葬式したちゅう。そうしてもう、若さんも大人になって帰られて、そいからちゅうものは、ここんことを鶏御所て、いうごとなったあー。(その後も、いろいろありそうな気がすっけどね。そん時は寝おって聞いたとけんね、眠むとうなって記憶んなか。)

チャンチャン。

〔八八 自然説明伝説(木)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P781)

標準語版 TOPへ