嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

西山ちゅう山(佐賀県杵島郡白石町室島)にねぇ、とても仲のいい夫婦が住んどんさったてぇ。そいどん、聟さんな樵(きこり)で、お嫁さんな機(はた)の織い方がとても上手やったて。西山の嫁さんなもう機の織いの上手で、その辺(へん)いっぴゃあ評判じゃったちゅうもんねぇ。そいぎぃ、そこは暮らしは楽じゃったちゅうもん。

ところが、この夫婦には子供がなかったとが傷じゃったて。そいぎねぇ、一生懸命稼ぐし機ばっかい織いよっし、西ん樵(きこり)の聟さんな、ついでき心で東山ん方にさ、良か女(おなご)ば見つけてしもうて、その人と仲良しになってしもうたて。そいぎぃ、本妻さんの西山の嫁さんの知らんわけはなかもんねぇ。西山の本妻さんな、

「えぇ。あぎゃん男は冗談(どうたん)のごともう、女見つけたいないたいすっ。あぎゃんとと暮らそうごとなかあ」ち言(ゅ)うて、西山の上に大きな穴のあった所に、機織いの機械まで持って行たて、そこで暮らすごとしんさいたて。

ところが、夫は東山の女につかいきっとったけど、初めはお嫁さんのように自分にも良うしておったいどん、だんだん飽きのきて、そぎゃん良(ゆ)うしてももらわん。迷惑がっとごとすんもんじゃい、やっぱい元(もと)の西山の本妻よいか有難かなかにゃあ、と思うて、

「俺(おい)が悪かった。許してくいろう。家に帰ってくいろう。もう、お前(まい)、そぎゃん所(とけ)ぇ引っ込まじ帰ってくいろう」ち言(ゅ)うて、謝ったいどん、その西山の嫁さんは、

「私の決心は変わらーん」ち言(ゅ)うて、断わった。そして、機を一生懸命織いながら、とうとう死んでしもうた。

そいから先、女が西山に登って行くぎねぇ、嵐が起きてさ、もう登られんごとなって。そいぎぃ、皆が言うには、

「西山のお嫁さんのありゃあ、怨霊(おんりょう)の崇いぞ。危なか、西山には登らんが良か。ありゃ、西山の嫁が嫉妬しょっと」言って、西山は女人禁制の山と、皆が決めた。

そいばあっきゃ。

〔七七 文化叙事伝説(精霊)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P765)

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