嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

爺ちゃんと婆ちゃんとおんしゃったちゅう。そいでもう、畑ん物ば作るとの二(ふちゃ)人(い)上手やったちゅうもんねぇ。あったぎねぇ、そん年ゃ雨も良か塩梅(んびゃあ)降っ。お天道さんも良かお天道さんていうことでね、太ーかも太か大根のできたてばい。そいぎねぇ、二人がかい畑に行たて、

「太かにゃあ。ぎゃん太か大根のできたとは初めてのごと」て言うて、掘りよんしゃったいどん、「こりゃあ、底の深かけん、二(ふちゃ)人(い)では掘いえんばあい」て言うて、掘いよんしゃったぎぃ、なかなか頭んにきばっかいで、どいしころ掘っても、まだ頭んにき。そいぎぃ、

「ここん辺(たり)、穴掘いの名人のおろうがあ。あの男ばいっちょ加勢うけて来(く)っ」ち言(ゆ)うて、穴掘いにね、

「チョッと、あんたに折入って頼みじゃいどん、奇妙なことないどん、大根の穴ば掘ってくんさんみゃあかあ。大根の太かとのできたいどん、掘いえじおっ」て。

「うん、そうやあ。そいぎぃ、爺ちゃん婆ちゃんのことないば、加勢に来(く)っ、加勢に来っ。何処(どこ)やあ」

「畑の真ん中」て言うて。

「ウンコラショ。ウンコラショ」言うて、掘らしたて。そいぎぃ、井戸んごとしてねぇ、上から、

「もう終わったのかあ」て、お爺さんの叫(おめ)きんしゃ、下で。

「よし、よし」て、こぎゃん言うごと、深か底じゃったてぇ。

「そいぎぃ、終わったないば、あいば引き上ぐっばーい。一(ひと)人(い)じゃ引き上げきゃえんけん、婆ちゃんと爺ちゃん二(ふちゃ)人(い)がかいで引きなーい」て、下から言う。そいぎぃ、二(ふた)人(い)がかいで、

「ウントコショ、ウントコショ。そら引け。まっと力ば入れろ」ち言(ゆ)うて、その大根ば引きおったて。

そうしたぎねぇ、ほんなね、上(あが)い口、もうじき泥ん上くっちゅう時なってから、尻尾につかまっとった穴掘いさんのポトーンと、かっかえんしゃったちゅう。あったぎばい、かっかえんしゃったとは良かったいどん、もう極楽も通り抜けてさ、地獄さい落ちんしゃったて。地獄までもかっかえんしゃったてぇ。そいぎぃ、地獄の閻魔(えんま)さんのそけぇおってねぇ、

「ぎゃんとの降ってきて、お前(まい)さんな何処(どっ)からきゃあ」て言うて、叱(くり)いんしゃったて。そいぎぃ、

「私(あたし)ゃ、畑の真ん中(なき)ゃあ爺ちゃんと婆ちゃんと、大根作っとっとの余(あんま)い太うして、こげんもんじゃい、私(わし)ゃ穴掘いで、雇われて掘いよったあ。あったぎぃ、良(ゆ)う掘ってぎゃんしてあがろうでしょったぎぃ、尻尾のつん切れてここまでも落ちてきた。どぎゃんないとんして、早(はよ)う帰(かや)あてくんさい、早う帰あてくんさい。私ゃまあーだ娑婆で働かんばらん」て言うて、バタバタすっ。閻魔さんなそいぎぃ、

「そぎゃんやあ。病気も何(なーん)ませじ息の根も止まらじぃ、地獄までもはって来とっ。ほんなこてそぎゃんのごたっ。そいぎとばい」て言うて、もうパサンパサンパサン、ポケットやら懐(ふところ)やら、こうこう見おんしゃったて。閻魔さんの、そうして、懐からね、小(こま)ーか粒ばばい、三つ取り出あて、

「こいば、一粒ずつ飲みやい」て。「いっちょ飲むぎ極楽さい地獄から帰っ」て。「そいから、まいっちょ飲むぎ穴ん中たい。そいぎぃ、穴ん中行ったぎまいっちょ飲みやい。そいぎぃ、地上さい、お前(まい)の住もうた所(とこ)さにゃ帰らるっ。そいけん、忘れじいっちょずつ飲みやい」て言うて、白か粒ば閻魔さんのくんさいたちゅう。そいば聞いたぎもう、貰うたぎ早(はよ)う帰たかとと、心が頓着(とんじゃく)しとった穴掘いさんな、

「有難(あいがと)うー」ち言(ゅ)うた拍子に、ヒョーッと三粒どめ一度に飲ましたちゅう。

あったぎぃ、ツルツル、ツルツル、ツルツル、ツルツルってもう、行くてじゃんもんねぇ。上さい恐ろしか目のまうごと上さい登って行く。そいぎぃ、雲の上さいはって行たて。穴掘いさんの。あったぎねぇ、雲の上でねぇ、もう雷さんの二(ふちゃ)人(い)おって、

「やあやあ」言いおいなっちゅうもんねぇ。ジーッと、とぼけて聞きおんさいたぎねぇ、

「太鼓持ちのおらじにゃあ、おどんがピカピカ、ドシャンドシャンやったてちゃわからんんたーい。どぎゃんして太鼓持ちゃはって行たろうかにゃあ。余(あんま)いお前(まい)さんの喧(やかま)し言うけんたい」

「いんにゃ、俺(おり)ゃ、何(なん)ても言わん」

「あいどん、何時(いつ)んはじじやいおらんごとなったあ」ち言(ゅ)うて、やいやい言いおったとは雷さん達て。

あったぎぃ、ヒョッとこう見回いよったぎぃ、そこん隅ん方に、雲ん上、ブルブル、ブルブルって、怖(えす)か者(もん)のごとして震(ふり)いよっ男ば目かかって、

「ありゃあ、こけぇ良か塩梅(んびゃあ)とけぇ来たあ。太鼓持ち雇おうでぇ。お前(まり)ゃ、太鼓ぐりゃあは打ちゆうだい」て、角の生えた雷さんの言いないたぎねぇ、こりゃあ、いち食わるっどんわからんと思うて、ウウーンて、頷(うなず)いたて。

「あいば、太鼓打ちば教(おそ)ゆっけんが、やさしかけん太鼓打ちなってくいろう」て、言うてねぇ、頼みんさいたちゅう。雲ん上で雷さん達の二人がかいで頼む。

そいぎねぇ、ああ、俺(おい)一役買えて一時(いつとき)ばかいこけぇおらるっばーい、と思うて、穴掘い男は、

「太鼓は、ぎゃん鳴らすぎ良かかにゃあ。ジャンジャンジャンてや」

「いんにゃあ、まちかーっとやわらかく」

「そいぎぃ、シャンシャンシャンてや」

「いんにゃあ、まちかーっと太う」

「あいば、ガタンガタンガタンてや」て言うてねぇ、

「うん。そんくりゃあな、良か良か」て。

「ないだけ太か音ば、あの、娑婆の人間どんが怖(えっ)しゃすっごと、太か音ば出(じ)ゃあたが良かあ」て。

そいぎねぇ、力まかせにその穴掘いさんの太鼓ば打ったちゅうもん。あったぎぃ、太鼓のびっしゃげたて。そいぎぃ、

「こん畜生(つきしょう)、また太鼓の音は何(なにい)もならんごとして、いっだん役立たずやったあ」ち言(ゅ)うて、追っかけて来たもんじゃい、雲ん上ばねぇ、ツルツルやってその穴掘いさんは逃げおったぎねぇ、雲の切れ間からさい、ダーンて、地上さいかっかえないたちゅうばい。そいぎぃ、ほんなこて我が家(え)帰っことのできてねぇ、

「ああ、良かったあ。地獄から天竺まで行たた世の中で我が一(ひ)人(とい)じゃろううだーい」て言うて、そいから先ゃもう、地獄ん話てん、そいから天竺の雷さんに会うた話てんばっかいその男が、大根掘いしたこた、いっちょでん爪ん垢(あか)んしこも話さじぃ、天国と地獄の話ばっかいしおったて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P634)

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