嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

殿様にお供して、家老さん達ゃ家来まで、あの、魚釣いに行ったてぇ。あったぎぃ、釣り糸垂らして釣いおったぎぃ、一時(いっとき)したぎねぇ、もうキンキラキンの何(なん)か魚の釣れたちゅう。そいぎぃ、誰(だい)でんその魚ば舟の上ー横たえて、

「こやあー、一体何ちゅう魚やろうかあ」ち言(ゅ)うて、聞きんさいどん、誰も知らんて。

「初めて見たあ」て、平気そがん言うて、

「あいどん、こいどん、こりゃ珍しかとじゃっけん、籠(かご)に大事に入れて、お城まで持って行こうやあ」て、言うことで、「そいから名前は、誰ないとん知っじゃろう」て、言うことに、あの、お城に持って来んさいたあて。あったぎぃ、ズーッとねぇ、行きおんさったぎぃ、

「そりゃあ、何やろうかあ」ち言(ゅ)うてねぇ、庭掃除の者(もん)が聞いた。

「こいやあ。こう何か、キンキラキンの魚ばあーい。お前(まい)も見たかかあ。殿さんに今、見せぎゃ行きおっとやっけん、今のうは見せられん。あいどん、ちかーっと覗き見ぐりゃあ良かろう」ち言(ゅ)うて、見たところが、

「あらー。そいやあ、その魚は太刀の魚ていうとたーい」

そいぎぃ、皆おん者はビックイして庭番どんしおって、この魚の名前ば知った。ああー、侍は刀は命よいか大事かとこれぇ、ぎゃんほんなこて見てみっぎぃ、長崎のことしとっぼう」言うて、それで腹を支えて皆が喜んで笑うた。ガヤガヤガヤいうて、お殿さん所(とけ)ぇ持って行たぎぃ、

「もう、何事きゃあ」て、言んさったて。そいぎぃ、

「これは、庭掃きの物だ。あの、太刀の魚ていう名前は言うた、めでたい魚でございます」ち言(ゆ)うて、その、差し上げたて。

「そうーか。最も見事、長崎ソックリじゃあ」て言うて、そいから先ゃ、その太刀魚、その城下でもてはやされたて。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P634)

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