嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とてももう、すばしこか、そいこそ何時(いつ)んはじゃおっ盗(と)っとったのかわからんごと、大泥棒のおったてぇ。そぎゃんすばしかもんじゃい、なかなか役人も捕まゆっことのできんじゃったてやんもんねぇ。

そいどん、とうとうその大泥棒の捕まえられてさ、

「もう、ぎゃん酷か泥棒じゃっけん、打ち首じゃあ」て言うて、打ち首になったあ。そいぎぃ、奉行さんがさ、

「あいどん、死ぬ前、何(なん)か言い残すことはなかかあ」て、言んしゃったぎぃ、その大泥棒がさ、

「私(わし)ゃもう、決めとっけん、勝手にお前(まい)達の良かごとしてくれぇ」て、言うたて。

「あいどん、辞世ぐらいあるだろうだーい」て、奉行さんが言んしゃったぎぃ、

「そぎゃん、『辞世』てんなんてん、知るもんきゃあ」て、言うたて。

「そいぎなあ、『辞世』ち言(ゅ)うもんな、死んでからでん、この世に残しておくもんだぞう。間違いなく、お前の言うたことば残しておく」

こがん、親切に言んしゃったて。そいぎぃ、大泥棒もねぇ、神妙になって、

「ほんなこて間違いなく残してくれるかあ」て、言うたぎぃ、

「ウン、ウン。確かに残す、残す」言うて、奉行さんが言んしゃったぎねぇ、改まって座ってさ、

「そいぎさ、辞世ば言う。私(わし)の命ば辞世にしとく。よろしく頼むよ」て、言うたとには、奉行さんも開(や)あた口が塞(ふさ)がらんやったて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P633)

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