嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

年取ったお爺さんとお婆さんが、仲良く暮らしおんしゃった。そうしてこの、お爺さんのねぇ、鰯(いわし)の頭までしゃぶいよんしゃったちゅうもんねぇ。そうして、「鰯の頭もしゃぶっぎ味のあって良かー。鯖の頭がほんなこと味のあっとじゃんもん」て言うて、誰(だれ)にでん話しおらした。

そしたぎぃ、ある日のこと、いつものごと鰯の頭ばガリガリガリ、ガリガリガリ、その、骨までしゃぶいおんしゃったてぇ。あったぎねぇ、その、歯の一本クルーッと抜けたちゅうもんねぇ。

「ありゃあ」って、言いながら、味のあんもんじゃいけん、またあくる日も、またあくる日も、鰯ば買(こ)うて来(き)ちゃあ、頭ばっかいかぶいつきよらしゃったてぇ。あったぎねぇ、そのたんびに、また歯の一本ポロッと。またあくる日も、食べおんしゃったぎぃ、歯のポロッと、とうとうその、爺ちゃんな歯なしになってしもうたてばーい。

そうしてねぇ、婆ちゃんな婆ちゃんでさ、豆が大好きたい。炒(い)り豆ば作って、「こいば美味(うま)かもん、味のあんもん」て言うて、炒り豆は沢山(たーくさん)作って。そうしてこさえて(作って)、その炒り豆ばボリボリ、ボリボリ食べおんしゃったて。そったぎねぇ、歯の一本ポロッてこげた(欠けた)ちゅうもん。「ありゃあ」て言うて、「もう年取ったもん、歯の治らんた当たい前」ち言(ゅ)うて、まあーだ、この豆食いは飽きもせん。味の出て美味かない。やめられん」ち言(ゅ)うて、豆ばバリバリ、バリバリ食べおんしゃったぎねぇ、またポロリポロリと今度こげてさい、とうとう爺ちゃんも婆ちゃんも、歯なし(話し)になってしもうたーち、話。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P632)

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