嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかしねぇ。

恐ろしか村にけちか男のおったちゅう。もうけちかもけちか、もう本当(ほんと)に自分から出すていうぎぃ、舌出すとでん好かん。そういう男がおって、隣(とない)のおんちゃんに髪の伸びっき必ず、

「おんちゃん、髪刈ってくれや」て言うて、面(つら)の皮の厚うて、何時(いつ)ーでんただで、頭の髪をつませおったて。

その男がある日、

「おんちゃん、また髪が伸びたよ。お前(まい)さんにやっぎただじゃけん、私(わし)ゃ儲くっ」て言うて、頼みに来たぎぃ、チョッとねぇ、隣(とない)のおんちゃんがこの締まり屋男の頭をつみよったぎぃ、そけぇ柿ば、あの、私(うち)の者(もん)がちぎってきたとば、皿の上おいとっとば、烏がヒュンヒュンヒュンて来て、縁側の柿ばヒョーッて、かぶりついた。そいぎぃ、

「ありゃっ、こりゃっ」て、すぐ追いかけよったところが、手元が狂って、その髪をつみよった頭ばチャーッて、その、隣のおんちゃんが傷つけてしもうた。そいぎ頭の傷ば負うたもんだから、そっからドクドク、ドクドク血が流れた。

ありゃあ、この血ば止めんば困んにゃあ、と思うとったら、今、烏がこじいたとに、柿の種がヒョロッて出とっとの、ああー、こいで押さえとこうで思うて、その柿の種ば取って来て、その頭の血の出おっ、傷ついたとこにペタッてはめたらちょうど良かった。そいで一時(いっとき)、こいでどうかなあ、と思ったら、血が止まった様子じゃったて。

ああー良かったなあ、と思って、この男はまーあだ、「あ痛っては言うたけど、血の流れたとは知らんどったから、残った髪をつまえて、隣(とない)のおんちゃん帰んさった。

そうしたらねぇ、もう、その、柿の種は糊で貼りつけたように、ペターッてその、血の糊でくっついとった。そうーしたら、そん時ゃ温(ぬ)っか時ではあるし、頭の熱は良か塩梅(んばい)の温度が続いて、その柿からね、芽が出たて。そうして、柿の芽が出たらドンドン、ドンドンその芽が大きくなる。隣(とない)のおんちゃんな、ありゃあ、隣の男の頭の傷に柿の種ばつけたけど、あの後どうなったかなあーて来てみんさった。枝葉(えだは)の出おった。ありゃあ、こりゃ何(なん)、て思うて、

「お前(まい)さん、お前(まい)さんの頭から柿の木の芽が出よっよう。こいばつまゆうか」て、言うたぎぃ、

「いんにゃ、髪の毛はつまえてこらわんばらん。私(わたし)が頭にそぎゃん柿の木の生(お)えよっとない、みったいなかあ」て、この締まり屋男は、欲の男で、「そりゃあ、そのままが良か、そのままが良か」て言う。

そうして、そのまましとったらね、その柿には頭は持ち上げられんごと枝葉の張ったとに、あくる年は、柿は八年もならんばならんていうのに、もうあくる年から柿がないかけて、もう沢山(どっさい)枝はたわわになったて。そいぎぃ、

「嬶これ、頭になっとっ柿ばちぎって売ってこい。家(うち)にゃ一粒でん食うにゃ及ばんぞう。家(うち)で食べよっとの目(め)ぇかかっぎぃ、隣(とない)近所から貰(もり)ゃあ来っ」と、言うことで、自分の頭の上になった柿をちぎって、町に売いに行った。

「ありゃあー、こりゃ美味(うま)い柿じゃ。こんな美味い物はない」ち言(ゅ)うて、もう瞬(またた)く間(ま)に売れて、沢山(どっさい)儲けして嬶さん帰って来た。

そして、またあくる日も、熟れたとからちぎって美味そうなのから売りに行った。三日(みっか)ばかいしたぎ、その辺(へん)評判になって、隣(とない)のおんちゃんの、

「冗談(じょうたん)のごと。頭に柿の種ば押しつけたとは、私(わし)じゃとけぇ。私(わし)はいっちょでん柿は供えじぃ、売って銭(ぜん)儲けしゅーてや、ぎゃんことなか。もう、ぎゃんた悪の種じゃけん、ひっこ抜いたがまし」ち言(ゅ)うて、おんちゃんの腹かきまぎりに、頭に生えとった柿を、ヒャーッて抜きんさったぎぃ、頭ん中にペコーッてくぼみのでけたて。そいぎぃ、

「ああ痛かったあ。ああ、もう隣(とない)の親父はただで髪もつんでくるけど、柿の折角銭儲けやったとけい」と、言ったら、夕立ちのきてバシャバシャバシャて。

「ああ、しもうたなーあ」ち言(ゅ)うて、雨に打たれて、その締まり屋男が表(おもて)に立っとったら、その引っこ抜いた柿の根の後に水の溜まったて。水の溜まったとは良かったけど、そこには鮒の棲みついたちいう。

「こりゃ鮒の子一匹でんうかんじゃったけん。生で棲みついたないば、こりゃ鮒ば煮て食(く)たら、鮒のこぶ煮ちいうて美味(おい)しいかけん。嬶よい、今度はこいば網ですくうて持って町さい持って行け」て、言うたら、

「へぇー。へぇー」ち言(ゅ)うて、言うこと聞いて、嬶さんが町に。そいぎぃ、

「もう、ほんにこの鮒は活きの良かとの美味(おい)しかろごとしとっ。美味(うま)かろごたっ」ち言(ゅ)うて、買いに来(き)て、もう沢山(たくさん)お金ば銭(せに)儲けして、

「あんさん、がん高(たこ)う売れた」ち言(ゆ)うて、帰って来(き)んさった。「良かったない」ち言(ゅ)うて。

ほんに柿の木の生(は)えたい、鮒の泳うだいして、そいどん、そがん一時(いっとき)は金儲けもあったいどん、この男は外さいいっちょん出じぃ、三日三晩熱の出てちぃ死んだてばい。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P631)

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