嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

ベロヘイベロヘイて言うたあ、それは万里車て言うことて。他所(よそ)んことばいねぇ。ベロヘイベロヘイていう題で、そい訳すっぎ万里車て。むかーしからねぇ、夢ば良か夢ば見っぎ話すことなんて。悪か夢はすぐ話さんば、悪かとのじき身に振りかかってくって、いう言い伝えのあったて。

むかーしむかし。

村の若(わっ)か者(もん)達が、正月にねぇ、親から、

「初夢ば見たかあ」て、聞かれたもんじゃい、

「見たようー」て、言うたぎぃ、

「そんならば話(はに)ゃあてろう。どぎゃんとば見たかあ。どがん夢やったかあ」て、聞いたぎぃ、その若(わっ)か者(もん)が、もうニアーニアー笑(わる)うて、いっちょん話さんちゅうもんにゃあ。

「こん畜生(ちきしょう)、根性の悪か。親の言うことは聞かじゃあ。子は、ぎゃん親の頼んでも聞かん子は、家(うち)にゃもう、おかれん。お前(まり)ゃ出て行けぇ」て言うて、放い出された。

そいぎ息子は、困ったにゃあ、と思うて、山ん中ば行きよったぎぃ、山ん中に岩屋のあって、そうして山賊どんが、そけぇたむろしておったて。そうして、その若か者ば見て、

「ぎゃん所(とこ)さい何(なん)しぎゃあ来たこう」て、言うもんじゃあ、

「えぇ、実は、ぎゃんして正月に夢見たぎぃ、『見た夢の話ば』ち言(ゅ)うたいどん、いっちょん話さんもんじゃい、『そんない出て行け』ち、言われて、出て来たあ」

「そいぎぃ、そん話ば俺(おれ)どめ聞かせろ」て、山賊どんが言うちゅうもんねぇ。そいどん、ニアーニアーその若か者は笑(わる)うて、いっちょん話さんて。

「そいぎぃ、その話は聞かすっぎ俺(お)どんが、宝物(たからもん)な見せるから」てまで、言うもんじゃい、

「どら、ぎゃん(コンナ)山ん中(なき)ゃあ宝物はしまとってやあ。へんな相手(やあーて)は何(なに)も何も話してしまった」て、その若(わっ)か者(もん)が言うたぎぃ、山賊の頭(かしら)の、

「そや、ぎゃんとやんもん」て、じき言うて、ちぃ見せたちゅう。小(こうま)か箱ば出(じ)ゃあてきて、

「箱の縁(ふち)ん方ば撫(な)ずっぎぃ、家(いえ)でん蔵でん、何(なん)でん出てくっとよう」て。「この箱の表ば撫ずっぎぃ、米でん酒でん、お望み次第たーい。あいどん、底ば撫ずっぎねぇ、死んだ者(もん)でん生き返っとばーい」て、その山賊の頭の言うたてじゃんもんねぇ。

「そいどん、箱の横と底とば持ってばい、『千里』ち言(ゅ)うぎぃ、千里飛ぶ。『万里』ち言(ゅ)うぎぃ、万里も飛うではって行くとばい」て言うて、自慢して聞かせたちゅう。

そいぎ追い出されて来た若か者のジーッと、そいば聞いとった。そいぎ今度(こんだ)あ、「是非、見せてくれ」言うて、聞かせたもん。

「話(はに)ゃあて聞かせろう」て、山賊どんが言うちゅうもん。あいどん、

「明日の朝、聞かすっ。信用して楽しゅうで待っとっぎ良か」て、ほんに落ちついて若か者の言うちゅう。

そいぎ山賊どんは、酒どん飲んで、そうしてもう、昼間の疲れからじき、グウスカグウスカ鼾きゃあて寝てしもうた。そいぎぃ、この若か者のその間(やあーだ)にねぇ、奥ん方からその箱を隠しもせじぃ、奥ん方に置(え)ぇてあったもんじゃい、そいば抱えて来て、「千里」て聞いたいどん、「万里」ち言うぎぃ、良かろうだいと思うて、

「万里、飛んで行けぇ」て、言うたぎねぇ、もう何時(いつ)んはじゃ飛んだいどんわからんごと、あの、「ベヨヘイ、ベヨヘイ」て、言うたぎぃ、飛んで行ったちゅう。

そいぎぃ、そん時飛んで行た時、山賊どんがうっ(接頭語的な用法)たまげて(オドロイテ)、気のついて、腹立てて、わあ、悔しゃしたいどん、もう万里も飛うではって行たもんじゃい、どぎゃんもしわえじ後の祭いじゃったあ。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P629)

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