嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかしむかしねぇ。
樵(きこり)さんがほんに多(うう)かったちゅうもん。あいどん、樵ちゅう仕事は、もう一日中、もう鋸(のこ)ば引いて暮らそうでちゃ、大変体力のいったて。そいけん、ご飯どま一升飯ちゅうて、食べおんしゃったてよう。そいでも鋸が切れんぎもうまた、ほんに苦労ちゅうもんねぇ。そいもんじゃい、木挽(こび)きさん達ゃねぇ、「目立て半日」て、そうして「鋸引き半時」と言うごと、もうどけ座って(ドカット座リ込ンデ)目立ては半日でんかごんでしまう。あったところにねぇ、薬(くすい)売いさんがやって来たあーて。
「薬(くすい)どまどうやろうかあ」て言うて、そのどけ座(すわ)って(ドカット座リ込ンデ)目立てをしおんしゃっ樵さんに言うたら、樵さんの言んしゃに、
「いっちょ少なかとの欲しかばい」て。「いっちょ少ないとをください」て、こう言んしゃったて。
「『いっちょ少なか』て言うとは、売っておりませんけどー」て、言うたらねぇ、
「いっちょ少なかと知らんなあ。お前(まい)さんな、そいぎ何(なん)売んさっあ」て、聞いたら、
「ははあー。私ゃ、薬売いでございます」て言うて。
「そいぎぃ、いっちょ少なかとは何じゃいわからんとか。そんならば、私(わし)が教えてやろーう。薬よいかいっちょ少なかとは、やすい(鑢)じゃろうだあーい。やすいは薬よいたいっちょ少なかばい。そいば、是非欲しいが、お前さん、いっちょ少なかとばくれ」て、言んさったら、
「私は幾らいっちょ少なかっても、お薬の中には『やすい』ちゅうのはありません」て。「売ってはやりたいが、持たんのは売られません」て、言うたと。
そいばっきゃ。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P628)