嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかし。
村に九(く)内(なーい)ていう人のおんさったてぇ。皆村ん者なねぇ、クニャーアさんとか、クニャーアおんちゃんとか、言いおったが、村ん子供達ゃあねぇ、
「クニャーアクニャーア言うよいか、どっちみち蒟蒻(こんにゃく)おんちゃんて言おう」ちて、大方の子供達や大きな子供まで、「蒟蒻おんちゃん」と、呼びおったと。
その蒟蒻おんちゃんは面白かちゅうもんねぇ。クニャーさんは気嫌が良くて、オーッと返事して、ニコニコ何時(いつ)ーでんしおんしゃって子供ん達歌いおったと。ところが、このおんちゃんの家は上の方がお寺で、前の家(うち)が山(やん)法師(ぼし)さんじゃったもんじゃい、木魚の音のせん時ゃ鐘の音。そぎゃあな音のせん時ゃ錫杖(しゃくじょう)のジャラージャラ聞っこゆっ。
「こぎゃん所におっぎぃ、命の縮まっ」て言うて、坂のいちばん下の方さい引越しんさったてばい。
ところが、ここもやかましかとう。隣者(とないもん)の夫婦喧嘩のしょっちゅう派手かちゅうもんねぇ。クニャーアおんちゃんの住み心地の良か所、と思うて、引越しんしゃったところに隣の喧嘩でやかましか。
そいぎある日、このクニャーアおんちゃんがねぇ、隣の境に垣ばしっかい作いおんしゃったちゅう。こいば見たクニャーアさんの嬶さんが、
「お前(まい)さん、仕事どませじぃ、何(なん)こっじゃろうかあ」て、聞いたぎぃ、
「黙っとれ。ようーしとれぇ。見よっぎわかっじゃっかあ。そがん世話はせじ良か。喋(しゃべ)んなあ」て、言んしゃって。そして、「ぎゃんしっかい塩ばしとかんばあ、隣の喧嘩の移ってこんごと垣ばしおっぞ」て、言んしゃったけん、そのクニャーアさんの嬶さんな腹きゃあてねぇ。そうして、
「他所(よそ)の喧嘩のなんて移ろう。他所の喧嘩しんさっとは勝手じゃろうもん」て、言んしゃったぎぃ、
「余(あんま)い言うな。よか塩梅(んばい)言いとれ。もう喧嘩の家さい移いおっやっか」て言うて、蒟蒻おんちゃんのプリプリしたてばい。
「隣の喧嘩の移っ」ち言(ゅ)うて、蒟蒻おんちゃんな垣ば長(なご)うかかって作いよんしゃったいどん、もう垣の効目はなし隣の喧嘩の蒟蒻おんちゃんの家さい移っとったちゅう。嬶さんとは喧嘩ごしやったと。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P1626)