嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいぎ五右衛門風呂ちゅうとば語りましょうか。五右衛門風呂じゃなか。お釜風呂、釜風呂。

むかしむかしねぇ。

もう昔しゃ貧乏で風呂でん持っとらんとこばっかいじゃったてよ。盥(たらい)にお湯ば汲んで来て、足どん洗うて汗どん流(なぎ)ゃあたいしおった。あったぎぃ、ある村にねぇ、ある年、恐ーろしか酷う雨の降ったてぇ。そうしてそこん辺(たい)いっぴゃあ川になって流れたちゅう。あったぎぃ、ここには何(なん)やかんや流れてきたてぇ。もう太か物(もん)でん小(こま)か物でん、何(なん)ーでん流れてきたちゅう。その中にねぇ、村の者(もん)の一遍でん見たごとなかごと、太ーか桶んごたっとの流れ着(ち)いたてばい。

あったぎねぇ、誰(だい)ーでん「ぎゃん珍しかと、こりゃあぎゃん太かと何(なん)やろうかあ」ち言(ゅ)うて、そん流れ着(ち)いた太うかとの前に集まってさ、珍しゃしおったてぇ。そいどん誰(だーい)も知っとっ者(もん)のおらんてじゃんもんねぇ。ぎゃしこ人間の黒山のごとしたいどん、誰(だーい)も知らんにゃあ。こりゃ、そいぎ何(なん)すっとじゃろうかあ」ち言(ゅ)うて、詮議もんぎガヤガヤガヤ言いおったいどん、誰も知らんもんじゃい、「こりゃ、お寺の和尚さんない、知っとんさいろうわからん」ち、「お寺の和尚さんば呼んで来い」て、言うことで、早速若(わっ)か者(もん)どんが、和尚さんば迎えに行たて。

あったぎ和尚さんな、じきわかったて。

「こいやあー、こりゃ風呂たーい。こりゃねぇ、据(す)えてばい、下ん方からボンボン焚物(たきもん)ば燃やーて、中(なき)ゃあ入れとった湯の沸くぎぃ、これ誰(だい)でん入って汗ば流すとう。ほんに、こぎゃん良かとな、誰でん買(き)ゃあえんもんのう」て、言うて帰んさいたて。あったぎぃ、村ん者(もん)なねぇ、初めてのごとで誰(だい)でん風呂でん買(き)ゃえんもん。

「こいが風呂ちゅうとないば、いっちょ塩梅(あんびゃ)あみいばしてみゅうかあ」て、言うてねぇ、そけ据えて焚(た)あたてよう。そいぎねぇ、

「さあ、籤(くじ)ば引いて順番ば決めたいどん、あいどん庄屋さん、あんた村中ば世話してくるんもん。お前(まい)、先(さき)入いござい」ち言(ゅ)うて、庄屋さんば先(さき)入れらしたちゅう。

あったぎねぇ、庄屋さん風呂から上がっぎじき、クシャンクシャンしおんさっ。そいぎ誰(だい)でん、

「塩梅あはどがんやったろうかあ」ち、聞いたぎねぇ、

「もうー、冷たかばっかいやったあ」て言うて、クシャンクシャンてしんさいたてぇ。そうして、いちばん最後に入った村でいちばん貧乏のね、

「あぎゃん良か塩梅あな極楽なことはなかったあ。良かーいい気分じゃったあ」ち言(ゅ)うて、上がって来てばいて。

チャンチャン。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P622)

標準語版 TOPへ