嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 恐ーろしゅうねぇ、釣り吉ちゅうて、釣り天狗ちゅうて、恐ーろしゅう仕事どませじぃ、魚釣りにばっかいしている男がおったて。今日(きゅう)も釣りに出かけて来たけれども、朝から釣り糸を垂れてもう、一生懸命おるけど、いっちょん今日(きょう)ばっかいはお魚(さかな)のかからんてじゃんもんねぇ、不思議て。ぎゃんことめったになかったて。

そいぎねぇ、ジーッと釣り糸を見よったら、すぐ側に柳の木のあったちゅうもんねぇ。で、柳の木からキラーキラー光る蜘蛛の糸の水に垂れとったて。ありゃ、さっから(サッキ)まで蜘蛛の糸の目(め)ぇかからんじゃったいどんねぇ。ありゃ、ありゃ、これを触ってみゅうかあ、と思うて。その蜘蛛の糸に、これが魚ば捕ってしみゃあよっじゃなかろうかあ、と思うて、その釣り天狗がねぇ。その柳の木から水に下っとる蜘蛛の糸にチョッと手を触れてみたて。そいぎぃ、その蜘蛛糸の恐ろしか強うして、グイグイ、グイグイその男まで、水さい引き込むごと強か力ば持っとって。こりゃ、たまらん、水に自分まで引き込まれいち殺さるっと思うて、手を離したら、柳の木がねぇ、もうユラユラユラ揺れて、川の水の所さい引き込まるるて。見よったら根が揺れていて根まで見(し)るっごと力の強かてじゃんもんねぇ。お魚は相変らずかからんて。

そうしたところが、しばらく経ったらねぇ、木の上に天狗さんの声のして、

「アッハハハハハ。アッハハハハハ。釣り天狗の馬鹿野郎。アッハハハハハ」て、高(たか)か笑い声のしたて。

そいぎぃ、その釣りに一心になっとった男も、物の化に憑(つ)かれたごとして、恐ろしゅうなって頭を抱えて、もう釣り道具どまそこに投げ捨ててねぇ、自分の家(うち)帰って布団かぶって、色青うなって寝とったて。

そいぎ翌日、お友達の来て、

「おい。今日は釣りに行かじぃ寝とっとやあ」て言うて、お友達がねぇ、からかうけど、

「俺(おい)、もう、こいからもう、釣りに行くたあ止めたあ」て言うて、その男はそいからプッツイ釣りすること止めたそうよ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P612)

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