嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にとても大きな榎(えのき)が生えとったて。余(あんま)い太かな物で、昼でも薄暗いごとあったて。そいけんねぇ、夏の暑い日には若(わっ)か者(もん)達が、その下さい何時(いつ)もやって来て、ゴローゴロー寝とったあ。そいどん、来(く)ん者な何時(いつ)うでん決まった連中ばかいやったて。

「ここは涼しゅうして極楽じゃあ、極楽じゃあ」て言うて、連中は大方、仕事好かずの怠け者じゃったちゅう。

そうして、涼しいいい気持ちがよいのを幸いに、ここでゴローゴロー寝て暮らしよったて。寝とってもお腹(なか)が減っとばい。そいで、

「ああ、美味(うま)か物が食べたかにゃあ」て、言うたぎぃ、その太か榎からスルスルスルって、つるべが落ちてきてねぇ、きたちゅうもん。そいぎぃ、

「何(なん)かこりゃあ」ち言(ゅ)うて、その釣瓶(つるべ)ん中ば見てみたぎおいしか餅が入(はい)っとったて。そいぎぃ、皆、寄ってたかって、

「美味(うま)い。美味い」ち言(ゅ)うて、ぼた餅ば食べたてさ。

こんなことして、毎日その榎の下にゴロゴロゴロたむろしとったちゅうもんねぇ。そぎゃんして寝ころんどっても、美味(うま)かぼた餅にあいつくもんだけん、

「ほんに楽ちん、楽ちん」ち言(ゅ)うて、そこに寄って来よったあ。

ところがねぇ、一時(いっとき)したぎぃ、そいから一遍下がって先ゃ、その釣瓶(つるべ)は下りてこんちゅうもん。皆が寝ころんで幾ら待っても来(こ)んて。

ある日、木の上から声が聞こえてきたて。ジーッと聞いとったら、

「こら。お前達、若(わっ)か者(もん)のくせに、余(あんま)い楽して美味(うま)か物にありつこうなん思うとは、不届きじゃあ」ち言(ゅ)うて、太か声のしたと。「こいから三日も棚からぼた餅ば望んどっけん、お前達の命はないと思え」て言う、恐ろしか太か声のしたちゅう。

そいを聞いた若か者は、命がないと言われて、命は惜しかったとみえて、そいから先ゃね、この榎の下にはねぇ、来(こ)じ一生懸命働くようになったてばい。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P610)

標準語版 TOPへ