嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかし。
侍の家(うち)で、ほんにここの家(うち)ん者(もん)は全部(しっきゃ)あ縁起ば担ぐちゅうもんねぇ。大晦日に大掃除すっ段になったあ。あったぎ下男がねぇ、神棚ば掃除しおっとばジーッと、侍さんが見おんしゃったぎぃ、雑巾で拭きよってじゃんもん。雑巾で掃除しおっ。そいぎその、侍の主人が、
「冗談(ぞうたん)じゃないぞう。雑巾で神棚ば拭くちゅう奴があっかあ」ち言(ゅ)うて、叱(くる)いんさった。
そいを聞いた下男が言うには、
「檀那様、私(わたい)が使うとっとはね、雑巾(雑金)ちゅうて汚か物(もの)じゃなかです。尊い物(もん)ですばい。これは沢山の金ちゅうことで、こいで何で言うぎぃ、いちばん良かとですばい」て、言うたちゅう。そいぎ侍の檀那も、こっれにゃ咎(とが)めるわけにゃいかず、
「よし、よし」ち言(ゅ)うて、拝ました。
チャンチャン。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P609)