嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

ある村に、造い醤油屋さんがあったて。その醤油屋さんには高(かーっ)か煙突が有名じゃったちゅうもんねぇ。あったいどん、庭には恐(おっそ)ろしか太か庭石の、こいも村の評判じゃったて。ところがさあ、その高(たっ)か煙突と、太ーか庭石が、がんしてひと所ぇジーッてしておっぎぃ、「我がわが世間知らずで一生終わっばい。いっそ思い切って、世間ば見物しに行たみゅうかあ」て、二人(ふたい)が話し合(お)うて、いよいよ旅に出かけることになったあ。ああーして、旅にズーッと行きようたぎぃ、一日は大風やったてぇ。そいぎねぇ、二日目大風やったて。そいぎねぇ、煙突は背の高(たっ)っかもんじゃい風の酷う当たってヨロヨロ、ヨロヨロすっ。あったいどんねぇ、あの庭石さんにそのたんびにつっかけ棒になってもろうて、吹き飛ばされまではせんじゃったて。そがんことで、とうとう宿屋に着くことのできたて。あったいどん、困ったことにゃあ、そのお宿に行たてみたぎぃ入口が狭(せーま)かちゅうもんねぇ。そいぎねぇ、村ん衆はいっちょん中に入られん。

「ああー、旅には出たいどん困った困ったあ。我がはだだでん良かけん、中に入ーきらん」ち言(ゅ)うて、ああー、ほきゃは仕方んなかあ、と思うて、庭石さんな外で寝んしゃった。

あったぎねぇ、夕方から雨の降り出(じ)ゃあたぎぃ、もう大降りなって一晩中降ったて。そいぎぃ、庭石は雨に濡れてビッショイなってしもうた。幸いなことに明くる日は良か天気じゃったもんじゃい、庭石は濡れたと、我が体を干しながら、またズウーッと煙突たんと旅をしたて。そうして、今度着(ち)いた家(うち)はねぇ、二人(ふたい)一緒に今度ないば泊まろう、と思うた時、今夜の宿は、もう平屋建ての低(ひーっ)か入口は広かいどん低か家じゃった。そーいぎ煙突さんは家(うち)ん中(なき)ゃあ入らじぃ、

「仕方んなか。そいぎぃ、今夜は私(わし)が他所(ほっきゃ)あて寝(に)ゅう」て言(い)うて、煙突さんが一晩外で寝っことに、我慢して寝たて。

そうして、夜さい明けたぎ二夜は一人は外、私ゃ内、いっちょん、石さんの言うには、「お前(まい)さんに気の毒で雨ども降らんぎ良かどん、と思うたぎぃ、とうとうユックイなかったあ」て言うて、話したて。そいぎぃ、煙突さんの言うことにゃ、

「やっぱい何時(いつ)もんごと醤油屋さんで、住み慣れたあそけぇおっとが、いちばん良かなあ」ち言(ゅ)うて、「もう旅どませじぃ、醤油屋さんに帰ろうやあ」ち言うて、二人(ふたり)は仲良く帰った。「やっぱい元ん所が良し、良か塩梅(んばゃあ)がいちばん良かあ」て言う。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P609)

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