嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

山に大変お金持ちのおんしゃったて。

もう山ちゅう山は、みんーんな長者さんのやまじゃったて。

ところが、長者さんも忙しく、何時(いつ)も働いて家(うち)に

ジーッとしておることなかったて。

そいでも里の長者さんと、とても気の合うて、友達だったから、

里の長者さんがこんな雪の降る日は、何仕事されんから、

山の長者さんおってやろうと、尋ねて来んしゃったて。

あったぎねぇ、もうあがい雪の積もって寒いのに、真っ裸で家の真ん中に座っとっです。

そいぎぃ、

「あら、今日は。今日、仕事はされじおんさっじゃろうと思うて、

あなた働き者(もん)だから、余(あんま)い暇じゃと思うて来たあ」

「はい。もう温(ぬく)うして汗はタラタラ」て。

「どうしてですか。こんな寒い日に」

上を指差すから上を見たら、自分の座っている所(とこ)の真上に、

大きな石を括いつけて、今のう綱が切れたら、落ちてくるばっかりして、

「ああ、なるほど」て、里の長者さんは思うて。

そうして、その山の長者さんが言んさんには、

「何時、綱が切れて、あの岩が頭に落ちかかってくるかと思うと、

もう堪えてるのが、汗タラタラて。寒い時、これ限っ」

「なるほど」て言うて、帰んしゃった。

そうして今度はねぇ、自分の家(うち)帰って、実は去年の大水の大変梅雨時でた時、

何でもいいから、沢山流れてくるから、里の長者さん、橋の上に大きなくわどを持って、

流れてくる物(もん)はみんな拾うて、そうしてあつかっごとみんな掘り出し物て。

そいぎ山に取いに行くに及ばず、ほんに助かって。そうした中に、夫婦下駄が流れてきた。

そいぎ何年でんしよっうちは、ちょうどお祭りのくって。

新しゅう鼻緒は切れたら、立派か下駄になって。そいぎ持って、

山の長者さんに正月のお年玉に行ったら、仏さんに詣(みゃ)あったら、

もう赤い火ががついてる、と思って、

こん、唐(とん)辛(がら)子(し)が仏さんに上げてあった。

そいぎぃ、あの、里の長者さんな、

「あなた、偉いことしてるねぇ」て、言うたら、

「はい。これで火事はできません」て。

「そうして仏さんの一日中、お光りば灯します」と、言うことやったて。

「ほんに、これくらい考えてせにゃあ、金持ちさんにならんばい」ち言(ゅ)うて、

里の長者さんは帰ったて。

「私もけちけちしているけど、山の長者さんは私よいもっと欲たれ」て言うて、

あの下駄ば履きよんさっけど、古下駄ばっかいで、新しい下駄じゃなかいどん、

お年寄りにやっぎ喜んで貰(もろ)うてくんさっ」て言うて、里の長者さんの帰ったて。

こぎゃん人とは違(ちご)うた苦労ばせんば金持ちならんて。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P603)

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