嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

とても話好きな庄屋さんがおんしゃったちゅう。そいぎぃ、我が部落のうちで話の上手な爺さんば連れて来て、

「話ばいっちょ聞かせてくいござい。私ゃ話聞くとが大好き」ち言(ゅ)うて、庄屋さんが毎晩毎晩、来おんしゃったちゅうもんねぇ。

ところが、ある日、その話、語り好きのお爺さんがやって来たてぇ。そうしてもう、

「今までしたことのなか話ば、面白か話ばしゅうでぇ」て言うて、「むかしむかし」から語いかけんしゃったちゅうもんねぇ。ところが、

「庄屋さん、庄屋さん。こなたに傘のあろう。傘を私にいっちょ貸(き)ゃあてください」て言うて、言んしゃったてじゃいもんじゃい、

「もう唐傘はある、ある」ち言(ゅ)うて、唐傘ば持って来んしゃったて。

そいぎぃ、そのお爺さんはねぇ、今日は化け物の話ばしゅうで思うて、一本足の傘に、一つ目の唐傘ん出てきて。そうして、

「子どんじゃろうが、そのへんのおっ母(か)さん達やろうが、威かす話ばすっばい」ち言(ゅ)うて、「むかしむかしのう。こぎゃん唐傘のあってさい」て、半分つぼめてねぇ、その柄ばこうして持ってねぇ。

そうしたぎぃ、その唐傘がスーッと、上ん方さいはっていたちゅうもんねぇ。そいぎあの、

「爺さん。今日は話ぎゃあ来たろうもん。その先ゃ何(なん)なあ」て。

「いんにゃあ、帰って来られん」て。

「降りて来られじも、来て話さんまあ」

「いや、この手ば離すと落ちるもーん」て、言わしたて。

「『話が落ちる』て。そいけん、『手ば離されん、落ちる』て、言うてもう、そいから先ゃ話さなかって。

そいばあっきゃ。

(出展 蒲原タツエ媼の語る843話p602

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