嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしねぇ。
自分の家(うち)の親父殿の代わりにさ、親戚のご供養に初めて行きんしゃったてぇ。そうして、法事もすんでその家に泊まっごとなったてじゃんもんねぇ。そいぎぃ、そこの親戚のおっ母(か)さんがさ、
「明日(あした)は仕事にも行かんでいいから、徳利(とっくい)と寝てくんさーい」て、愛想良(ゆ)う、言んさったて。
そいぎぃ、朝になっておっ母(か)さんが、釜の火を焚きおんさったぎぃ、あん息子が起きて来たて。そうして、
「昨夜(ゆうべ)はユックイ寝たかんたあ」て、おっ母さんが聞きんさったぎぃ、
「いんにゃあ。床の変わっていっちょん寝(ね)ぇらんやったあ」て、その息子さんが言うて。「その上、床の変わったぐりゃあじゃなかったあ。そんくりゃあは良かったいどん、徳利と寝たとは初めてじゃったあ。ほんに眠かったあ。一晩中、私ゃ眠られんじゃったあ」て言うて、その親類のおっ母さんに言うたて。
「『とっくりと寝てください』て言うた、『ユックリと寝てください』て言うたとけぇ、あんさんごと徳利を持ち出(じ)ゃあて寝(ぬ)ん者のあんもんですかー。おかしかにゃあ」ち言(ゅ)うて、恐ろしゅう高笑いされて、その親戚の息子は帰ったと。
そいばあっきゃ。
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P602