嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もう働いたしこ地主さんに儲けを取られてしまうもんだけん、その村は、ほんにもう働く元気のなしおんしゃったてぇ。

そいぎぃ、庄屋さんが、ちぃっと褒美どんやらんけん、元気が出んとばいと思うて、

「お前(まい)達、あっこの田圃は八畝六分ば二(ふた)人(い)で立派に耕してくるっぎぃ、お酒は一升やっから。今日は、天気も良かけん、耕してくれぇ」て言うて、頼まれたもんで二人で耕しよったてぇ。そいぎあの、八畝ばっかい耕したところで、

「きつかねぇ。一時(いっとき)憩(いこ)う」て言うて、憩うとったぎぃ、そけぇ六部さんていうて、(昔、六部さんちゅうとは、背中にお経さんば背負(かる)うて三蔵法師じゃなかいどん、回(まわ)いよんさったですねぇ。)六部さんが通いかかったて。

「チョッともう、八畝耕してほんに、もう力は無(の)うなったごたっ。あいどん、お天道さんも西に入(ひゃ)あいよんしゃっ。あと六分ねぇ」

「はあ、六分かあ」

「六分が気になる。六分ねぇ。あと六分てねぇ」て、二(ふちゃ)人(い)連れかちゃあごし(代ワル代ワル)、「六分。六分」て、言うとったっよ。そこへ通りかかった六部さんが、

「俺(おい)、何(なん)か用かーあ」て、言んしゃったてぇ。「六部。六部。人ば呼びつけにして、何か用かーあ」て、言うたちゅう。

「何(なん)てぇ、あんたが腹かくところのあんねぇ。私(あたい)どま八畝六分のあとの残いが、『六分』て、言いよったとよう。あんたに咎(とが)めらるっことはなかあ。断わいば入るっぎ許さんこともなかいどん、酒一升持って来たこんな許そうだい。堪忍しゅうだい」て、言うたもんだから、六部さんは、ほんに、我がすまんやった。仏さんに仕える身にしとって、すまんやった。我がまあーだ行(ぎょう)がたらんやったと思うて、酒屋にじき行たて、酒ば一升持って来て、

「お詫びのしるしです。堪忍してください」ち言(ゅ)うて、六部さんはやんさいたて。

そいぎぃ、六部さんの行きんしやったぎぃ、

「儲けたない。また一升増えた。あのさ、庄屋さんからも一升貰うもんね。良かったない」て言うて、二人は精を出してあとの六分を耕して帰ったて。

そいばあっかいです。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P601

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