嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

もうとてもきれーいか巡礼さんが、めぐって来たて。そいぎ村の若(わっ)か者(もん)どま、その、きれーいかもんじゃい見とうしてたまらん。そうして誰(だい)でんねぇ、

「あの子が、確きゃ竜宮から来たとばーい」て言うて、

「家(うち)、泊まってよかばい。家、泊まってよかばい」て、若(わっ)か者(もん)どんが言うたちゅう。

そいぎその巡礼さんな、あつこの家(うち)、ここの家て、かわりがわい何処(どこ)の家でん泊まって歩きよんしゃったて。ところが正月のきた時分に、チョッといつの間にじゃいろう、おらんごとなんしゃったーあ。そうして菜の花の咲く時分になったぎぃ、またその巡礼さんなこの村にヒョッコリ帰って来(き)んさいたちゅうもん。そいぎ若か者な、嬉しゃしてねぇ、寄ってたかって、

「あんさんな、何処さい行たとったねぇ。何処さい行たとったねぇ」て、聞いたぎぃ、

「竜宮さい帰って来(き)といました。竜宮から『チョッとお正月に帰って来い』て、言うことやったけん、そいで帰って来といました」て言うて、言んしゃったけん。そうしたら今度あねぇ、

「竜宮はきれいか所じゃろう」て、聞くぎぃ、

「はい。とてもきれいですよ。赤やら青やら、建物がもう何千何百と続いております。今にもまた極楽浄土ですよう」ち言(ゅ)うて、その巡礼さんは語んしゃっちゅうもんねぇ。そいぎぃ、その若か者の内からねぇ、

「そいぎぃ、行たてみたかにゃあ」て、言う者(もん)のあったてぇ。そいぎぃ、その巡礼さんが、

「私が、行きたい方は何時(いつ)ーでもご案内をいたしますよ」と言うた。そいぎぃ、

「そいじゃ、ほんなこて行こうかあ」ち言(ゅ)うて、その、朝暗ーかうちから準備して待っとったあ。

そいぎぃ、海の上の向こうからね、真ーっ白か蛇の泳いで来(く)ってじゃんもん。そいぎ巡礼さんの、

「あの蛇の背中にお乗りください」て言うて、巡礼さんの言んしゃったぎねぇ、

「あの、私(わし)ゃ蛇の背中には気持ちん悪うして、乗って行こうごとなかあ。いくら何でちゃ、竜宮ちゅう所(とこ)まで、そがん蛇の背中に乗って行かれーん」て言うて、プイとして自分の家(うち)さいひっ帰ってしみゃいんさったて。

あったいどん、竜宮城ではねぇ、皆(みーんな)、お姫さん達は女の人ばっかいやったて。そいぎもう、男の若(わっ)か者の来っちゅうてもう、恐ーろしかお御馳走しとってねぇ、花どん載せて、あの部屋この部屋て飾って、良か臭いばさせて待っとたいどんね、巡礼さんが来て言うには、

「あの人は来ない」て言んしゃったぎぃ、乙姫さんの、

「ああ、そうかあ」て。「名前ば木内(こない)なのか。そんなら来(こ)ない、来ない」て、言んしゃったて。(木の内て。)

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P600)

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