嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にねぇ、爺さんと孫とたった二人で暮しよったてぇ。そいぎねぇ、昔ゃ明かりば灯すとにゃあ松明(たいまつ)ば、こうつけよったけん、お爺さんが正月の明かいつくっとにねぇ、松の根ば一生懸命掘いよったちゅうもん。そいぎそけぇ、若(わっ)か役人が通いかかってねぇ、

「これ、これ、爺さん。明日正月ちゅうとけぇ、そけぇで何をしよっやあ」て、聞きやったて。そいぎぃ、お爺さんは、

「それはなあ」て、言わじぃ、セッセセッセと松の根を掘いよんしゃったちゅうもん。

そいぎぃ、若か役人な爺さんな耳ん遠かとばいなあ、と思うて、今度耳の側さん口ば持ってきて、

「爺さーん、爺さーん。お前(まい)さんそこで今、何をしとるんやあ」て、大声で言ったけど、爺さんはそいでも何(なーん)でも言わんじゃったて。

そうして、その日はもう、セッセと人とも話さじぃ、松の根を沢山(よんにゅう)掘って自分の家(うち)に帰って来たて。そうしてねぇ、爺さんがどうか顔色が悪かったもんで、孫がねぇ、

「お爺さん、何(なん)でそんなにションボリした青い顔をしとるんやあ」て、聞いたら、お爺さんが昼間あったことを話しんしゃったちゅうもん。そいぎ孫がねぇ、

「お爺さん、明日は正月じゃいどん、お爺さんと二人で今度(こんだ)あ、松の根掘いに行たてみゅうかあ。また、あの若か役人が通るかもわからんよう」て、孫が言ったぎぃ、

「そうじゃなあ。そいじゃ二人で行たてみゅうかあ」ち言(ゅ)うて、二人で行ったて。

そいぎぃ、ほんなこと案の定、その若か役人が来たてじゃんもんねぇ。そうして昨日のごと、

「お爺さーん。そこで何しとる」ち言(ゅ)うて、太うか声で言うたちゅう。そいぎ孫がねぇ、

「松に正月はなけれども、松の根焚ければ火が灯る」て、言うたちゅうもんねぇ。そいぎぃ、役人がビックイして、

「お前は年は幾らかあ」て、聞いたぎぃ、

「七つ」て言うて、答えたて。そいぎぃ、

「七つにたったなって利口な子だなあ」ち言(ゅ)うて、「家(うち)ぃ来い」言うてねぇ、「今日は正月やっとけぇ、二人で働くとは感心じゃ、家ぃ来い。ご馳走してやるから」ち言(ゅ)うて、我が家(え)連れて行たちゅう。

そうしてねぇ、我が家でお盆にお餅ばさ、柔らかかお餅ばいっぱい載せて持って来てね、そうして、

「さあ、お爺さんも坊やも、好きなだけ沢山、たんとお上がりよ」て、言ったて。

そいぎぃ、孫はもう、柔らかくて、そぎゃん美味(おい)しかお餅どま食べたことなしぃ、餅は大好きじゃったもんじゃっけん、もう、左でも取って食(き)い、恐ーろしゅうもう、両手で取って食べたて。そいぎねぇ、その役人さんなねぇ、

「どっちが美味(うま)かったかあ」て、聞きんしゃったちゅうもん。

あったぎぃ、手ば両方ペチャッて、打ったちゅう。そうしたぎぃ、その子はねぇ、

「どっちが鳴ったかあ」て、今度(こんだ)あ、役人に聞いたて。そいぎぃ、

「まいったあ。お前(まい)は本当に利口だ」て言うて、もう役人はやり込められたけれども大変、感心した、ということです。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P597)

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