嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかーしねぇ。

お母さんと息子さんと二人暮しよったてぇ。ところがもう、大変親を大事にしてその息子さんは、「親孝行」て、村中恐ろしか評判になったて。そうして、その評判はねぇ、お代官さんの耳にまで聞こえたちゅう。

そいぎぃ、ある時、代官さんが、

「そいぎぃ、その親孝行のどぎゃんしよっじゃい見てみゅう」ち言(ゅ)うて、出かけて来(き)んしゃったてぇ。

そうして、お代官さんが来てみんしゃったぎねぇ、上がい口に息子さんが、ドカーッと、腰掛けて、そん下ん方には盥(たらい)に水ば持って来て、お母さんが丁寧にその息子さんの足ば洗わせよんしゃっちゅうもん。そいぎねぇ、お代官さんのねぇ、ビックイしんしゃったて。

「あありゃ、ぎゃんとが親孝行じゃろうかあ。チョッと、あいが親孝行じゃろうかあ」て、チョッと驚きんしゃったもんじゃっけん、その息子さんの所に行たてねぇ、

「大抵(たいち)ゃ、そなたが親孝行ちゅうことで私(わし)ゃあ下見に来た」て、こう代官さんが聞きんしゃったちゅうもん。

「あんたが、お母さんの足ば洗うてくいよっとない見て良かいどん、こいで良かかねぇ」て、こう言んしゃったぎぃ、息子さんが、

「はい、はい」て、丁寧にお礼ばしてねぇ、

「そうです。そうです」て。「ところがねぇ、おっ母(か)がもう、『私の足ば洗わせてくいろ』て、『今日一日、お前(まい)がひとりで働いて来たけん、おっ母さんがあんたの足ば洗うとが、いちばん嬉しか』て。『あんたの足ば、その足で、山まで行って働いて来たけん、洗わせてくいろ』ち言(ゅ)うて、頼みます」て。「そいで、親孝行はねぇ、親の喜ぶごとすっとが親孝行じゃっけん、『洗わせてくいろ』て、言わすもんじゃっけん、こうして親孝行のつもいで洗わしておりました」て、そがん言んさったて。そいぎ代官さんも、

「ああ、なるほど」て。「どぎゃん良かごとばしても、親の喜ばんことばすっとは、親孝行じゃなかもんなあ」て。「ほんなこっぞ。お前(まい)さんの言うごと、ほんなこと。今からも、親孝行に、おっ母さんの喜ぶことをしてくれ」て言うて、帰んさったて、いうことです。

そういうことです。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P595)

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