嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいぎね、今度は「褒美の畑」、そい話します。

むかーしむかし。

とても腕の良い床屋さんがいました。もう、その床屋さんは本当に上手だもんだから、お客さんが何時(いつ)ーでも余計に、床屋さんが繁昌していたわけです。そいぎ床屋さんの嫁さんが言うには、

「あんたは、そんなに腕の良かもん。コンクールに出てんしゃい。あんたが褒めらるっよう」と、言うことで、

「そうかあ」て言うて。(その昔もねぇ、床屋さんのコンクールもあっていたようです。)そいで床屋さんは、コンクールに行ったら、本当に上手に早く、見事の仕上げたから、褒美を貰った。ところがブスーッてして家(うち)に帰って来た。

「あなた、褒美を貰ったろーう」て言うたら、

「うん」て、頷(うなず)けをしたけど、余(あんま)い嬉しそうじゃない。

「何(なん)ば貰(もろ)うたあ」と言うたら、

「こともあろうに、僕の貰うたとは、土地の荒れた畑だよ。畑は、僕達に何(なーん)も用はなか。骨折って働かんばらん。畑に鍬一本も、盥いっちょも持たんない、畑ば貰うても有難うもなか」ち、もうプンプン、シャンシャン床屋さんはこぼすわけですよ。そうしたら、女将さんが言うには、

「あんた、何(なん)て馬鹿なことを言う。土地はねぇ、泥棒持ってはって行かんよう。そいから、隣(とない)の火事になっても燃えはせん。そうして、もう私らが死んでからも、万(まん)劫(ごう)末(まつ)代(じゃあ)畑はあっけん良くないねぇ」ち。

ところが、そん時分なもうすぐ、その床屋の二、三軒先に空き小屋のあった所に泥棒達が、すぐそこに集まい所にしとった。泥棒達は、

「こう不景気じゃ、落ちてる金もない。泥棒に入っても、お金も何処(どこ)の家(うち)も持たん」て。「お金のなか所ばっかいで、私達も、僕達の、商売もあがったり。もうそいでも、ほら、あの床屋が賞金ば貰うて来とんに違いなかよう。コンクルールでほんに褒められよった。あつこに今夜は入ろう」ち言(ゅ)うて、「あいどん、じき入るぎぃ、僕達が疑われて、じき警察から捕まっけん、明日の晩にしよう」

そうしてしよったところが、その翌日は、その畑を棒切れば持って、床屋さんと嫁さんがバッタバッタ、バッタバッタ、バッタバッタ畑を叩く。何(なん)であんなに叩きよろうかあ。若い人に、

「お前(まい)、近所に顔見知りもんじゃい行たて、床屋の母ちゃんに、『何で畑を叩きおんね』て、聞いてご覧」

あいで、早速その若(わっ)か者(もん)が出かけて、

「小母さん、どうして畑をそんなに、畑が何か悪いことしたの」て、言うたら、

「なーに。この畑の中にはさ、『金のいっぱい詰った壷が埋めてあっ』て。「そいばねぇ、爺様から聞いとったよう。私(わい)所(ところ)の畑は荒れ畑じゃいどん、あつこには金の瓶(かめ)が埋めてあっけんねぇ」て言うた。「私が一(ひと)人(い)そいば聞いとっけん、何処にその金の、入った瓶があるかと思うて、畑ばボトボト叩いて探しおった」て。

「そう」と言うて、喜んで泥棒の小憎は跳んで帰って、

「あつこの畑の中(なき)ゃあは、金のいっぱい入った壷ば埋まっとって。そいけん、あぎゃんボットンボットン叩きおっ」て。「『何処にあるか』ち、言いおっ」て。

「そうー。そい、良かこと聞いてきたね。今度(こんだ)あ、今夜頂戴しよう」と、言うところで、その晩は、もう皆がスコップ持って来た。まあ、前打ち(唐鍬)持って来た。そいでもう、あっちこっち一晩中、夜の明くんまで掘りくい返したけど、とうとう金の瓶は見つからんじゃったて。

そいぎね、この床屋の母ちゃんは、裏の畑を見てニコニコして、

「何(ない)が嬉しい」て、床屋さんが言んさっぎぃ、

「ほら、見てみなさい。鍬いっちょも持たんでも、立派に掘りくい返してあっ」て。「そいば狙(ねら)うとった」て。「そいぎぃ、ここにねぇ、籾種(もみだね)ば蒔く」て、言うて籾種ば蒔いたら、初めて蒔いたから立派に稔って、とてももう、その自分の家(うち)の、自分達の一年中食ぶる米、後は売ったお金がどっさい溜まった。

そいぎぃ、またこの泥棒が、聞きのがしとらんで、

「あつこはねぇ、一年も待った、待たされたいどん、できた米ば売って、お金ば余計持っとっ。そいどん、ジーッと聞きおったぎぃ、

「父ちゃん、この米のお金は何処になわそうか。ああ、そうそう。砂糖の壷ば太―かとば買(こ)うて、その砂糖壷の底にお金ば隠しとこう。そいぎぃ、泥棒どま、とても砂糖壷ん中(なき)ゃあ、お金のあろうち思わんけん、盗まれんばい」て言うて。そいも高々と言うもんだから、

「うまいとこ聞いたあ」て言うて、泥棒達が三人も夜の来(く)っとば待って、床屋の側の木にある砂糖壷ば抱えて行たちゅう。そうして、

「さあ、甘かろう。まず、砂糖舐めようと思ったぎぃ、なんの塵(ごみ)箱じゃったてぇ。もう、屑入れば拾うてきた」ち言(ゅ)うて、泣き面に蜂じゃないけど、皆でガッカリして「床屋の母ちゃんからやられること。私(あたい)どまもう、くわらされることことばっかいねぇ」て、泥棒達は、もう嘆いていたて。

そいばっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P594)

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