嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

鉄砲で獣を撃っていた猟師さんのおんさったちゅう。そいで、その方がズーッと山を駆け巡って、何時(いつ)ーでんその人の手に落ちん鳥も獣もなかったけど、その日に限っていっちも、その獲物が目にはいらんそうです。いっちょんはいらんじゃったて。あったぎねぇ、もう、こりゃ、今日(きょう)は何(なーん)も、こんなだから、もう猟は止めて帰ろうかなあ、て思(おめ)ぇおって、もう少ーし夕方ないかかった時に、高(たか)ーか木の上に、もうそいこそ大きなクマタカの止まとっちゅう。そしてねぇ、

「ありゃあ。ありゃ、今までに見たことでんなかごと、ありゃ、クマタカ。あいがクマタカばい」ち言(ゅ)うて、狙いよんさったけん、ようーし、こいはもう、今日(きゅう)は獲物にはもう、おてついて獲って行こうて、ソロソロ登りかけんさったそうです。

そして、鉄砲ばこうやって狙いば定めて、撃とうかあーてしんしゃったぎね、今度は熊のもそっと(グズグズシテ)来て、いかーにも足元から木に登いかかって来(く)うごとしたて、熊の。そいで、あらー、熊も獲(と)いたか、木の上のクマタカも獲いたか、困ったもんにゃあ、と思って、二股かけて、こっちの枝に右足、左の枝に左足をかけて、そうして踏ん張って、ああ、弾を二つ込めて、一発をクマタカ、まいっちょは熊は射ろう、と思うて、クマタカを先ずドーン、ズトーンと撃ったらね、クマタカのあれは音ばかいで、玉がそれたて。そうして、その鉄砲の音に驚いて、今まで登って来(く)うでしおった熊も、後(あと)見(み)い後見いして、間(ま)もなく逃げて。そうして、その猟師さんはどうかというと、股は張いさぐっように、両方にまたがってもう、降りるに降りられじぃ、もう、何(なん)か、人間の足つぎのごとなっとっさったあて。

そいけん、欲のクマタカと言うたごと、クマタカいっちょう狙ってすれば良かったのに、二股かけんさったため、二つとも獲物は逃ぎゃあて、仕舞(しみゃ)んさったあーて。やっぱい似とっ。「一兎も得ず」ということのあっでしょ。そいの例えです。両方に股かけたから、股かけたいどん、自分の股にはえたけんていう、教訓のある話。

そいばっきゃあ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P588)

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