嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある所にお医者さんと和尚さんがおったて。

こん二人はねぇ、ある日のこと、和尚さんが法事から帰って来おったぎねぇ、二(ふた)人(い)の百姓の者(もん)がさい、田の先を、

「ここまでが家(うち)んとじゃったあ」

「いんにゃあ、ここはこう曲っとったあ」ち言(ゅ)うて、喧嘩しおったちゅう。そうして、

「和尚さん、良か塩梅(んびゃあ)、こけぇ通りかかったもん。仲裁に入ってくんさい。うまい具合に田を分けてくんさい」て、言うたて。

そいぎねぇ、二人の百姓が和尚さんが仲裁に入(はい)ってうまい具合に田をわけてやったもんじゃっけん、

「ほんに良かったあ」ち言(ゅ)うて、帰って行たて。

こんことを聞いたお医者さんがさ、

「ありゃ、ありゃさあ。そうじゃろう」て。「そうじゃろう」て。「あん和尚は、『戯(たわ)け(田分け)和尚』て、言われおんもん。田分けくっぐりゃあ上手くさい」て、言うたちゅうぎぃ、そいがまた噂になったちゅうもんねぇ。

そうして、とうとう和尚さんはこの噂が耳入ったてぇ。そいぎぃ、こいば聞いた和尚さんなしゃくにさわってたまらん。どぎゃんないどんして、あの医者ばやっつけんばににゃあ、と思うて、聞いたあくる日、早速、小僧ば医者さん所(とけ)ぇ使(つき)ゃあにやったて。その小僧が言うにはさ、

「お寺の裏山の竹て。藪(やぶ)が病気に罹っとっ」て。「お医者さん、来てください」て、使(つき)ゃあに行たて。そいぎぃ、医者さんが言うには、

「私(わし)ゃさあ、あの、そぎゃん竹の病どっとば治しゃえん」て。「医者は医者でも人間の病気しきゃ治しゃえん」て。「竹藪についた病気は何(なん)て治しゆう」ち言(ゅ)うて。「そりゃあ、治しえんばーい」ち言(ゅ)うて、断わったて。そいぎまた、和尚さんが出て行って、

「いんにゃあ。いやいや、治す、治す。お前(まい)じゃなからんば」て、言うたて。

「そぎゃーん言うたてちゃあ、道は道。私(あたし)、人間の道、道の違(ちご)うとっばい」て。「そぎゃーん竹の病気は知らん」て、医者は言うたて。そいぎぃ、和尚さんが言うには、

「あいどんさい、皆、お前(まい)さんのことは、『やぶ医者、やぶ医者』ち言(ゅ)うとこれぇ、やぶ医者の籔の病気ば治しえんことのあっかい」て、言うたちゅう。

そいぎねぇ、医者さんも、もう見事にやり込められんしゃったて。

そいばあっきゃ。

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P579)

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